溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
話してみたい。
もっと近くに行ったら、どんな声で話すのか聞けるかな。
知ってほしい。
三藤 咲という私の存在を。
――もっと、あなたのことを知りたいんです。
積もりに積もった、ひと目惚れオンリーの片想いに背を押され、私は自然と席を立っていた。
自社の輪を離れて縁日屋台に向かう人の波に乗って歩くと、突然浴衣の袖を強引に掴まれて体勢を崩しそうになった。
「お姉さん、こっちで一緒にどう?」
「えっ……あの……」
「君、八神の子なんだろ? 今日は俺の接待なんだから、ちょっとくらい付き合いなさい」
「いえ、私はそのっ」
八神グループとは何ら関係のない、文具マニアのOLなんですが……。
見ず知らずのスーツを着たおじさんに抗うも、非力な私は隣に座らされてしまった。