溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
彼が住まいにしているデラックススイートルームを出て、初めて訪れた高級ホテルの通路を歩き、エレベーターでロビー階へ降りて、ホテルを出た。
夏の朝は、早くから灼熱だ。
アメニティにあった日焼け止めを塗った肌を、容赦なく焦がそうと照らす。
昨夜の一件を思うと、はしたない自分を世間から隠したくて、無意識のうちに俯いた。
駅までの道中、備え付けのスチームアイロンで簡単に皺を伸ばしただけの浴衣が恥ずかしくて、足早に電車に乗って帰宅した。
今夏が最後と思っていたのに、この浴衣は捨てられそうにない。
八神さんと過ごした思い出が残る、私の初めてを捧げた夜の印だから……。
もし、あんなに酔うことなく誘われていたら、今頃まだ彼の隣で横になっていただろうか。
昨夜を思い出して、ドキドキしながら話したりしたのかな。
だけど、考えれば考えるほど、後悔がつきまとった。
こんな私を、彼はきっと好きになってくれないだろう。
片想いは、片想いのままで幸せだったのかもしれない。