溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
「酒は飲めるかい?」
「すみません、あのですね」
「なんだ、下戸か? でも俺の酒が飲めないわけがないよなぁ」
既に酔っている様子の、五十代くらいのおじさんは、私の口元に日本酒が入った枡を寄せてきて。
「あーぁ、こぼれちゃったなぁ。浴衣、脱いじゃおう。そうだ、そうしよう」
「ひっ!!」
おじさんの手が、日本酒で濡れた襟元へ伸びてくる。
「あの、私はっ」
「いいだろ? 減るもんじゃない」
私の声に全く耳を傾けようとしないおじさんからどうやって逃れようかと視線を泳がせると、憧れの彼は誰かと電話しているようで気づいていない。
接待だからか、周囲の社員は客先の醜態にどう対応するか当惑しているようだ。