溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
大衆の面前で恥ずかしい目に遭うなんて。
誰か助けて――。
「出水(いずみ)常務、ほどほどになさってください」
怯えていたら……汚らわしい手が遠退いて、私の肩にかけられたスーツジャケットに、初めて知った温もりを感じる。
そして、割って入ったその人を見上げると、憧れの彼が私を心配そうに見下ろしていた。
「大変申し訳ありませんでした。大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫、です……」
突然の出来事が重なり、大丈夫と答える唇が震えてしまう。
「せっかくの浴衣も台無しだ……私についてきてください」
彼は、同席していた他の社員に場を任せ、私を連れだって特別観覧席から離れた。
賑やかな場での出来事に目を向けた人は少なかったようだ。
うちの会社の人も、部長の子どものかわいさと次々打ち上がる花火に夢中で、離席している私に気づいた人はいなかった。