溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
「お疲れ様です」
乗車して待っていた運転手が降りてきて、後部座席のドアを開けた。
「どうぞお乗りください」
「あの、どちらに」
「そのまま帰すわけにはいきませんので」
半ば押し込まれるように乗り込むなり、彼は隣で誰かに電話をかけるようで、携帯を耳に当てている。
「――さっき言った通りに頼みますね。なにかあれば連絡してください」
おそらく、残してきた同僚に連絡をしたのだろう。
重要な取引先だから、花火大会の席を用意したのかもしれないし……私なんかのために時間を使ってもらうのは申し訳ないなぁ。
「あの……」
「はい」
携帯の画面から視線を向けられただけで、心臓ごと鷲掴みされたようで息をのんだ。