溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

「あの夜もそうでしょう。浴衣をご自分で着付けたようでしたし、足指は下駄の鼻緒で擦れていましたからね」
「……さすが、よくお気づきですね」
「一応、こう見えて着物を取り扱う企業におりますから。お客様に心地良く和装を楽しんでいただくためには、それくらい気付けないと」

 ゆるやかに微笑まれると、どうにも頬が熱くなる。
 昨夜、大嫌いだと思ったのに。私だって二度と会わないと言い返すつもりが、簡単に片想いが再燃しようとする。


「花火大会からあなたを連れ出した時も、さっきのようにホッとした顔をしていたのをよく覚えているんです」

 地上階に着いたエレベーターから、再び私の手を取ってエスコートする彼は、雨の日に再会した人とは別人のようだ。

 優しくて丁寧で、思いやりを感じられて……私が焦がれていた八神さんは、こういう人だった。


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