溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
ホテルのロビーには、多くの利用客が行き交う。
着物姿の女性は珍しいようでただでさえ目を引くのに、彼が微笑みながら手を繋ぎ、「ゆっくり行きましょう」なんて気を使ってくれるものだから、一度赤らんだ頬は俯いたって隠しようがなくて、恥ずかしくなった。
「あの、どちらに?」
「ひとまずここを出ます。父たちの監視の目があっては、私も気が休まりません」
そう言うと、彼は待たせていた様子の社用車の後部座席へ私を乗せた。
花火大会の時も乗せてもらったけれど、相変わらず広々とした車内に落ち着かない。乗り慣れている彼は優雅に過ごしているけれど……。
「あっ!」
「どうしました?」
「私たちが車を使ってしまったら、会長や社長の足がなくなってしまいます」
「あははは、大丈夫。これは私専用の車です。祖父も父もそれぞれ待たせてありますからご心配なく」
にこっと笑ってみせる彼に、とっくに失恋して、片想いを続けることすらできないと諦めたはずなのに、ドキッとした胸の奥がなんとなく気まずい。