溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

「帰りたい、ということなら、話をするまでは受け入れられませんので諦めてください」

 その場しのぎの架空の予定はあっさり見破られ、彼にソファへ誘われるまま腰を下ろしてしまった。


「着物がつらいようでしたら、部屋着を出してもらうようにフロントに連絡しますが、どうしますか?」
「いえ、結構です」

 それじゃ、この前の二の舞だ。
 浴衣が汚れたからシャワーを浴びて、ガウンを着て過ごして。

 思い出すだけで、かぁっと頬が熱くなる。


「三藤さん?」
「っ、は、はい」
「やっとこっち見た」
「えっ!?」

 雨の日、冷たい物言いをして去った彼は、幻だったのかとさえ思う。
 悪い夢でも見たと言われたら、そうだと信じたくなるほど、目の前の八神さんは穏やかで紳士的で、一緒にいてドキドキさせられる。


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