生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

48.生贄姫は真実を述べる。

「……なんで、そんなことを」

「これをフィリクス殿下の手に渡すわけにはいかなかったのです」

「何でここで、フィリクスが出てくるわけ?」

 ゲームのシナリオ上、この賢者の石に関する一切を流出させた犯人はカナン王国第一王子のフィリクスだった。
 破滅に繋がるフラグを折りたいリーリエとしては、フィリクスがこの魔法陣に興味を持つより早くどうしても回収する必要があったのだ。
 とはいえ、そんな話ができるはずもなく当然の追及にリーリエは目を伏せる。

「殿下は、誘惑に弱すぎる……から」

 話せない前世の代わりに事実を話すことにする。

「カナンの陛下は王としては非常に優秀な方です」

 政において、歴代の王に引けを取らないず、柔軟性と非情さを併せ持っていて、人を使う事に長けている。
 彼は間違いなく一国を治めるのにふさわしい人格者だ。

「でも残念ながら、夫としても父親としても円満な家庭を築くという才が全くと言っていいほどなかった」

 これみよがしにため息をつくリーリエに、理解ができないという顔をするルイスとテオドール。
 まぁ、2人とも父親の背中を見て育ったタイプではないしなとリーリエは苦笑する。

「マーガレット王妃は、フローレンス公爵家の出身で、陛下をとても愛していた。愛し過ぎていた、と言ってもいいかもしれない」

 フローレンス公爵家は序列3位の、由緒正しい上流貴族で、野心家でもある。
 王家に嫁ぐための根回しがしっかりできるくらいには力のある家だ。

「いくら愛しても、尽くしても、陛下から関心の向けられない生活は辛かったでしょうね。愛情の深い人なら尚更」

 追っても、待っても、尽くしても。
 振り向かれない生活は、王妃を病ませるには充分で。

「そんな中、陛下によく似た子どもが生まれたらどうなると思います?」

「そりゃ、まぁ溺愛しちゃうよねー」

 ルイスの察したような声にリーリエは頷く。
 本来なら諌めなければならなかったのだろう。だが、その役を担える者が居なかった。
 王妃の生家は王妃の境遇を知っていたため強くは言えず、当事者の陛下は妻子に目もくれない。

「結果、出来上がったのが現在のカナン王国の王子達。アホな第1王子と、残念な第2王子、それを反面教師に育てられた賢い第3王子です」

 ちなみに第3王子のレヴィウス様はアシュレイ公爵家次女のシャロンと婚約済み。
 まだ11歳のため王太子として指名する事ができていないが、カナン王国としては次期国王は彼しか考えられず、生まれた時から家臣全体で全力で囲っている。
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