生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

「……いきなり不敬罪になりそうな発言だね」

　ルイスは苦笑しつつ、第1王子にも第2王子にも会った事がある身としては、リーリエの暴言を肯定せざるを得ない。

「それ以外、アレをなんて言えばいいわけ？オブラートに包んだって、事実変わらないでしょ」

　彼女の表情から笑顔が消え、頭痛でも抑えるかのように額に手をあて、チッと聞こえるレベルで舌打ちするリーリエ。

「う〜わぁ、リリがやさぐれてる」

「……こんな話、本当は旦那さまの前でしたくはないのですよ」

　悔しそうに唇を噛み締め、そう漏らすリーリエ。
　テオドールの方に視線をやった翡翠色の瞳は泣き出しそうに曇り、繋がれた手に力が篭る。

「リーリエ、無理に話さなくても構わないが」

　心配そうに見返すテオドールを見て、少しだけ落ち着いたリーリエは、

「旦那さまは安定の優しさと顔の良さですね。殺伐とした気持ちが癒されます」

　そういってふふっと笑った。

「おふたりとも今から私かなりご不快な言葉を吐き続けますが、聞いてくださいます？」

　そして、一瞬のうちに殺意と怒りを纏ったリーリエの雰囲気にルイスとテオドールの体感温度が氷点下まで暴落する。
　表情は笑顔で固定されているが、全く持って笑っていない。
　リーリエはふーっと息を吐くと、一気に捲くし立てる。

「あのアホ代表みたいな殿下が、王位を継げないことくらい誰の目にも明らかだった。それでも王妃は殿下を溺愛していたし、王妃の出自も公爵家。王位が継げなかったとしてもいずれ公爵家に婿養子として入れればいい。でも序列の低いところなんて殿下と王妃のプライドが許さない。そんなどうでもいいことを取り繕うために当てがわれたのよ、私は！　まぁ最も、陛下としては殿下と結婚してもいいし、何なら他国に転売するにもちょうどいいかくらいに思われてたみたいだけど？ふ・ざ・け・ん・なっ！　子育てに失敗した不始末を私に押し付けないでくれる？　私の人生、ほぼアレの尻拭いなんだけど！？　アレと結婚とか前世でどれだけ悪徳積んだのよ？　って話よ」

　捲し立て終わりはぁーっと肩で息をするリーリエ。

「リリが、キレた」

　ここまでブチギレしたリーリエを見た事がないルイスは、どうどうとリーリエを宥め、割とリーリエの奇行に慣れているテオドールは平然とカフェオレを薦める。
　カフェオレを飲んで落ち着いたリーリエは盛大にため息を漏らす。