生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「リリ、大丈夫。お兄ちゃんが何とかしてあげよう」

「……助けて、くれるの? 見返りもなしで?」

「まぁ、うちの国にも関わる事だし、リリが捨て身で来る事とか、超レアじゃん? それにね、人間関係って計算式じゃ成り立たないんだよ、リリ」

 楽しそうに笑うアメジストの目を見ながら疑問符が尽きないリーリエ。

「まぁ、リリの言葉を借りるなら"推せる"って奴? 俺はね、多分リリとこんな風に普通に話してみたかったんだ。いつも一人で奮闘してる君のファンだからね」

 俺にとってはリリが推しなんだよと楽しそうに笑うルイスに、リーリエは目を見開く。

「リリは俺が君を処刑台に追いやるとか切り捨てるとか思っているかもしれないけど、俺はそこまで非情になれない。もうその時点で俺の負け。可愛い妹分で幼馴染みで好敵手のリリを、俺は君が思っている以上に大事にしているからね」

 10年。
 2人が親交を結んできた時間。
 それは、ルイスの認識を変えるには充分だった。

「それに、リリがいないと、ポーカーもダウトも大富豪もカードゲームが面白くなくなっちゃうじゃないか。勝ち逃げなんて許さないよ?」

 だからまた、ゲームをしよう。
 そう言って微笑むルイスにリーリエは頷く。

「ありがとう、ルゥ。私にとってルゥはもちろん"推し"だけど、今初めてカッコいいって思ったわ」

「マジかー。じゃあテオドールと別れて俺と結婚しちゃう?」

「あ、それは無理。私ルゥに関しては公式カプ推しだから」

 さらっとプロポーズするルイスを秒で断るリーリエ。

「リリは酷いなぁー。いつも秒で断る」

「……袖にしたってコレ?」

 冗談だと思ってたわと呆れたようにリーリエは笑う。

「割と毎回本気なんだけど?」

「"だが、断る"なのですよ。だって、私にはもう素敵で無敵で一生推せる旦那さまがついてますからね」

 ふふっと楽しそうに笑ったリーリエは、すっかりいつもの調子を取り戻し、手を繋いでいるテオドールの方を向く。

「私に勇気をくださってありがとうございます、旦那さま。あなたがいると、私はどうやら素直になれるようです」

 青と金のオッドアイは、誰よりも大切そうにリーリエを見つめ、蜂蜜色の髪を撫でる。
 割と頻回にされている事なのに、いつもよりその手つきが優しくて、甘やかされているようで、リーリエは赤面しそうになる。

「旦那さま、ファンサービスは程々に」

「それは難しい相談だ」

「うぅわぁ、独占欲。イチャついてないで話し進めていい?」

「いちゃついてなど! 何言っているのですか! 第一、旦那さまに失礼ですよ!?」

 ルイスの揶揄いに今度こそ耳まで赤くしたリーリエが抗議する。

「いやぁ、俺の義妹は本当に可愛い」

「俺の妻だからな」

「2人ともいい加減にしてくださいませ」

 揶揄われ過ぎてキャパオーバーを起こしそうなリーリエは、もうっと本気で抗議する。
くるくる変わる目まぐるしい感情に翻弄されながら、リーリエは思う。
 状況は何一つ変わっていない。
 それでも2人が協力してくれるだけで、何とかなるんじゃないかと。
 例えばこれから先、破滅の足音が聞こえたとしても、もう怖くない。
 そんな風に確かに思えた。
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