生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「まずは、情報が必要です。そこで冒頭のお願いに話が戻ります」

 冒頭のお願い、フクロウと目の貸し出し。
ルイスは考えるように頷き、

「フクロウはすぐ用意するけど、俺の腕はカナン城内までは伸びないよ。流石に条約違反に抵触する」

 と答える。

「フィリクス殿下の菫なら、どうでしょう?」

「……菫ね。リリはあくまでフィリクスを疑うの?」

 リーリエは迷ったように戸惑いながら、ゆっくり頷いた。

「確証があるわけではないのです。でも、10年前のあの頃、私の1番近くにいたのはやはり殿下なのですよ」

 ゲーム通りのシナリオでない以上、別の人を疑う必要があるのかもしれない。
 それでも、リーリエの中で1番に思い浮かぶのはフィリクスだった。 

「アホで性格イカれてるけど、頭の出来はそこまで悪くないんですよね。残念ながら」

 特に魔法関係に関しては、スキルの恩恵もあってそれなりだ。
 あくまでそれなりなのは、本人が努力しなかったからに他ならないが。

「分かった。とりあえずそっちは探ってみるよ。フクロウもすぐに派遣しよう」

 他に気になることはと促され、リーリエはためらいがちに、

「魔術省の管轄は、第2王子のレオンハルト様で間違いないでしょうか?」

 と口にする。 

 アルカナ王国第2王子レオンハルト・ノワール・アルカナ。
 ルイスの1つ下、テオドールの2つ上の別腹の兄弟。側室である母親の生家ノワール家はアルカナ王国の中でも歴史ある魔術師の名家であり、爵位は侯爵。
 リーリエが知っている情報はこのくらいだ。

「魔術省は名義はレオンだけど、レオン本人というよりもノワール侯爵家とその派閥が仕切っている独立機関に近いかな。俺はアイリーン妃は勿論ノワール侯爵家にも目の敵にされているから、手が出しづらい場所でもある」

 アルカナ王国の王族は一夫多妻が多い。
 ルイスの母は正妃だが、伯爵家出身でノワール侯爵家より序列が低い。
 もともと伯爵家出が正妃であることをよく思っていなかったのだから、ルイスが全権代理に指名された後でもノワール侯爵派閥が幅を利かせていてもおかしくはない。

「レオンハルト様を引っ張り出して来ることはできませんか? この魔法陣に魔術省が噛んでいるなら、筆頭魔術師のレオンハルト様が関わっている可能性が高いと思うのだけど」

 リーリエは直接会ったことはないが、レオンハルトは魔術師であればその名を聞いたことがない人などいないくらい天才として名高い。
 ただし、彼が人前に姿を現す機会は極端に少なく、リーリエとテオドールの結婚のお披露目と称した夜会にすら出てこなかった。
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