生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「……余計な、お世話でしたね」
リーリエは察したように微笑んで、静かに言葉を吐き出した。
テオドールは誰かに敷かれたレールの上をただ安穏と歩むタイプではない。
リーリエが憧れたその人は、自分の目で見て、自分で決断し、自分の信念を曲げず、何者にも屈せず、自らの力で道を切り拓くのだ。
リーリエはゆっくり瞬きを繰り返し、テオドールと同じ口調で言葉を紡ぐ。
「私は、愛を囁き合う関係よりも背中を預けられる人がいい」
騙し合いや駆け引きが当たり前の世界で、信頼できる相手は何物にも代え難い存在だから。
「私は、ただ無条件に愛でられるよりも私の事を諌めてくれる人がいい」
自分の使う知識はこの世界の常識を超える。私欲のまま濫用し、間違った活用で無差別に不用意に誰かを傷つけてしまうことは怖いから。
「私は、天の才に驕らず努力し続けられる人がいい」
与えられた才にに甘えず、自分を律し、限界を超えていくその姿に感銘を受けたから。
「私は、机上で空論を述べるより地を這ったとしてもその身で成すべきことのために尽くそうとするその姿がかっこいいと思う」
望むものを実現するためには、キレイ事だけでは済まされないから。
「私は、無知を恥じ、未知に敬意を示し、知らないことを正しく恐れ、分かり合う努力ができる人でありたいと願う」
ゲームでのリーリエは「知らなかった」から、破滅した。
テオドールはその髪と目の秘密を「知らなかった」から忌み子にされた。
少数派が迫害を受けるそのほとんどの原因は「無知」と「無理解」だ。
でも、もしも”知”を積み、”理解”が深まり、”常識”が変わったなら、違う”未来”が見られるかもしれないから。
「そんな自分になれたなら……」
あなたを想うことだけは、許されるだろうか? そう言いかけて、リーリエは言葉を飲んだ。
「そんな人と歩めたら、人生すっごく面白く生きられそうじゃないですか?」
言えない思いの代わりをのせて、リーリエは綺麗に笑って見せた。
「症例数が少なくて今はまだデータを集めきれていないのですけれど、私が必ず証明しますね。旦那さまのこの髪と、この目がいかに綺麗で貴重で素晴らしいものであるか」
楽しみにしていてくださいね、とリーリエは鈴の鳴るような声で未来を紡ぐ。
「私が証明しちゃったら、旦那さま訳アリ物件からただのイケメン優良物件になっちゃいますね。わぁ~縁談増えちゃいそう」
選ぶの大変ですね、と揶揄うようにリーリエは茶化す。
「本人前に物件言うな」
呆れたようなテオドールの声にふふっと楽し気な声で微笑むリーリエは真っ黒な空を見上げてつぶやいた。
「いつか、私とあなたの歩む道が分かれても」
本来のゲームのシナリオ上テオドールとリーリエの人生が交わることは決してなかった。
「これから先、例えばあなたの味方になれない日が来たとしても」
シナリオの外、空白の部分でテオドールが誰と人生を歩んだのかリーリエは知らない。
だけど、それがリーリエでないことだけは知っている。
「それでも私は、絶対あなたの敵になったりしないから」
選んでしまったら、彼が欲しいと手を伸ばしてしまったら、それは本来テオドールが手にするはずだった幸せの可能性をつぶしてしまうことに他ならない。
「それだけは信じてもらえますか?」
何かを選ぶということは、何かを捨てるという事だから。
「きっと私は、何があっても、旦那さまのことを一生”推し”ちゃうんでしょうね」
だから、こんな不確かで、一時の気の迷いのような感情で、テオドールの未来を略奪するようなことはあってはならない。
「それだけは変わらないことを、リーリエ・アシュレイの名に懸けて誓います」
それが、今のリーリエに言える精一杯の回答だった。
リーリエは察したように微笑んで、静かに言葉を吐き出した。
テオドールは誰かに敷かれたレールの上をただ安穏と歩むタイプではない。
リーリエが憧れたその人は、自分の目で見て、自分で決断し、自分の信念を曲げず、何者にも屈せず、自らの力で道を切り拓くのだ。
リーリエはゆっくり瞬きを繰り返し、テオドールと同じ口調で言葉を紡ぐ。
「私は、愛を囁き合う関係よりも背中を預けられる人がいい」
騙し合いや駆け引きが当たり前の世界で、信頼できる相手は何物にも代え難い存在だから。
「私は、ただ無条件に愛でられるよりも私の事を諌めてくれる人がいい」
自分の使う知識はこの世界の常識を超える。私欲のまま濫用し、間違った活用で無差別に不用意に誰かを傷つけてしまうことは怖いから。
「私は、天の才に驕らず努力し続けられる人がいい」
与えられた才にに甘えず、自分を律し、限界を超えていくその姿に感銘を受けたから。
「私は、机上で空論を述べるより地を這ったとしてもその身で成すべきことのために尽くそうとするその姿がかっこいいと思う」
望むものを実現するためには、キレイ事だけでは済まされないから。
「私は、無知を恥じ、未知に敬意を示し、知らないことを正しく恐れ、分かり合う努力ができる人でありたいと願う」
ゲームでのリーリエは「知らなかった」から、破滅した。
テオドールはその髪と目の秘密を「知らなかった」から忌み子にされた。
少数派が迫害を受けるそのほとんどの原因は「無知」と「無理解」だ。
でも、もしも”知”を積み、”理解”が深まり、”常識”が変わったなら、違う”未来”が見られるかもしれないから。
「そんな自分になれたなら……」
あなたを想うことだけは、許されるだろうか? そう言いかけて、リーリエは言葉を飲んだ。
「そんな人と歩めたら、人生すっごく面白く生きられそうじゃないですか?」
言えない思いの代わりをのせて、リーリエは綺麗に笑って見せた。
「症例数が少なくて今はまだデータを集めきれていないのですけれど、私が必ず証明しますね。旦那さまのこの髪と、この目がいかに綺麗で貴重で素晴らしいものであるか」
楽しみにしていてくださいね、とリーリエは鈴の鳴るような声で未来を紡ぐ。
「私が証明しちゃったら、旦那さま訳アリ物件からただのイケメン優良物件になっちゃいますね。わぁ~縁談増えちゃいそう」
選ぶの大変ですね、と揶揄うようにリーリエは茶化す。
「本人前に物件言うな」
呆れたようなテオドールの声にふふっと楽し気な声で微笑むリーリエは真っ黒な空を見上げてつぶやいた。
「いつか、私とあなたの歩む道が分かれても」
本来のゲームのシナリオ上テオドールとリーリエの人生が交わることは決してなかった。
「これから先、例えばあなたの味方になれない日が来たとしても」
シナリオの外、空白の部分でテオドールが誰と人生を歩んだのかリーリエは知らない。
だけど、それがリーリエでないことだけは知っている。
「それでも私は、絶対あなたの敵になったりしないから」
選んでしまったら、彼が欲しいと手を伸ばしてしまったら、それは本来テオドールが手にするはずだった幸せの可能性をつぶしてしまうことに他ならない。
「それだけは信じてもらえますか?」
何かを選ぶということは、何かを捨てるという事だから。
「きっと私は、何があっても、旦那さまのことを一生”推し”ちゃうんでしょうね」
だから、こんな不確かで、一時の気の迷いのような感情で、テオドールの未来を略奪するようなことはあってはならない。
「それだけは変わらないことを、リーリエ・アシュレイの名に懸けて誓います」
それが、今のリーリエに言える精一杯の回答だった。