生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
58.生贄姫は敬語を禁止される。
「で、何をしてくれるんだ?」
「何、と言われましても。私で可能な事でしたら、としか。そもそも何をお悩みなのです? お仕事関係ではないのでしょう?」
テオドールの仕事に関しては今のところ特に悩む事案も発生していないし、リーリエからの課題はそつなくこなしている。
ルイスから無理難題を押し付けられていたとしても、仕事中城内で気を抜くほど上の空になることなど今までなかった。
そのため、リーリエとしては全く予測がつかず、テオドールの心がどこに向いているのかが分からない。
「……腹を割って話すなら今日は駆け引きなし、心理戦なし、探り合いなし、敬語禁止で、どちらかが潰れるまで飲む」
お前だよ、お前。悩みの種はっ!!
と、いっそのこと言ってしまいたかったが、こんな機会も滅多にないかとテオドールは言葉を飲んだ。
代わりに出した条件にリーリエは首を傾げる。
「……明日のお仕事どうされるつもりですか?」
「新婚なのに、ずっと働き詰めだからな。多少は許される。あと敬語禁止」
「……敬語禁止、旦那さま相手に。なかなか難しい条件でございますね。多少変でもお許し頂けます?」
そもそも家族ですらほぼ丁寧な言葉使いで接しているのだ。
敬語を禁止する意図が分からないが、それでテオドールの気が晴れるならまぁいいかとリーリエは了承した。
空いたテオドールのぐい呑みに追加でお酒を注ぐ。
「じゃあ今日は無礼講という事で」
リーリエは自分の分のぐい呑みを軽く持ち上げて、そう告げた。
「ツマミも美味いな」
「でしょ? 好きそうなの見繕ってきたもの」
少し得意気にそう言って笑うリーリエの頭を撫でようとして、髪が乱れるかと撫でるのを止めて軽くポンと手を置くに止める。
「よくできましたと、言葉で褒めてくれてもいいのに」
ふふっと楽しそうに笑いながらリーリエはお酒を口に運ぶ。
錫のぐい呑みで呑むそれはまろやかな口当たりで、すっと溶けるように口内に広がる。
「えらい、えらい」
「2回言う時は誠意が感じられませんよ?」
「……敬語」
「……今のもダメ? 判定厳しい」
むぅっとちょっと拗ねたような口調でリーリエが抗議する。
「砕けた口調で話す相手なんていなかったのだから、仕方ないでしょ?」
口調を崩し、酒を酌み交わせるほど気を許せる相手など、リーリエの今までの人生でいなかった。
家族以外で周りにいるのは、利害関係が成り立つ相手か、リーリエにとって守るべき相手か、敵かだけ。
「友達いないんだったか。寂しいやつ」
「……あなただって、大して変わらないでしょ?」
じとっとやや非難めいた口調と視線を送って、リーリエはぐい呑みの中身を呑み干す。
そのぐい呑みにテオドールは追加を注いでやりながら、
「まぁ、確かにな」
と優しく笑った。
「何、と言われましても。私で可能な事でしたら、としか。そもそも何をお悩みなのです? お仕事関係ではないのでしょう?」
テオドールの仕事に関しては今のところ特に悩む事案も発生していないし、リーリエからの課題はそつなくこなしている。
ルイスから無理難題を押し付けられていたとしても、仕事中城内で気を抜くほど上の空になることなど今までなかった。
そのため、リーリエとしては全く予測がつかず、テオドールの心がどこに向いているのかが分からない。
「……腹を割って話すなら今日は駆け引きなし、心理戦なし、探り合いなし、敬語禁止で、どちらかが潰れるまで飲む」
お前だよ、お前。悩みの種はっ!!
と、いっそのこと言ってしまいたかったが、こんな機会も滅多にないかとテオドールは言葉を飲んだ。
代わりに出した条件にリーリエは首を傾げる。
「……明日のお仕事どうされるつもりですか?」
「新婚なのに、ずっと働き詰めだからな。多少は許される。あと敬語禁止」
「……敬語禁止、旦那さま相手に。なかなか難しい条件でございますね。多少変でもお許し頂けます?」
そもそも家族ですらほぼ丁寧な言葉使いで接しているのだ。
敬語を禁止する意図が分からないが、それでテオドールの気が晴れるならまぁいいかとリーリエは了承した。
空いたテオドールのぐい呑みに追加でお酒を注ぐ。
「じゃあ今日は無礼講という事で」
リーリエは自分の分のぐい呑みを軽く持ち上げて、そう告げた。
「ツマミも美味いな」
「でしょ? 好きそうなの見繕ってきたもの」
少し得意気にそう言って笑うリーリエの頭を撫でようとして、髪が乱れるかと撫でるのを止めて軽くポンと手を置くに止める。
「よくできましたと、言葉で褒めてくれてもいいのに」
ふふっと楽しそうに笑いながらリーリエはお酒を口に運ぶ。
錫のぐい呑みで呑むそれはまろやかな口当たりで、すっと溶けるように口内に広がる。
「えらい、えらい」
「2回言う時は誠意が感じられませんよ?」
「……敬語」
「……今のもダメ? 判定厳しい」
むぅっとちょっと拗ねたような口調でリーリエが抗議する。
「砕けた口調で話す相手なんていなかったのだから、仕方ないでしょ?」
口調を崩し、酒を酌み交わせるほど気を許せる相手など、リーリエの今までの人生でいなかった。
家族以外で周りにいるのは、利害関係が成り立つ相手か、リーリエにとって守るべき相手か、敵かだけ。
「友達いないんだったか。寂しいやつ」
「……あなただって、大して変わらないでしょ?」
じとっとやや非難めいた口調と視線を送って、リーリエはぐい呑みの中身を呑み干す。
そのぐい呑みにテオドールは追加を注いでやりながら、
「まぁ、確かにな」
と優しく笑った。