生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
 第一騎士団研究棟。
 そこには所属している大魔導師のフィオナを筆頭に20名の魔導師が勤務しているという。

「美味。リリ、遠慮しないで食べていいよ?」

 案内された研究棟の応接室のテーブルの上にはこれでもかというくらいお菓子が乗っており、それをもぐもぐと幸せそうに頬張りながらフィオナはリーリエにも勧める。

「ふふ、では一ついただきますね」

 リーリエは勧められたお菓子をつまみ、ビーカーで出されたコーヒーを飲む。

「あまーいミルクティ最高。この一杯のために今日もフィーは生きている」

 同じくビーカーに入っているミルクティーをくぴくぴと飲みながら、フィオナはそうつぶやく。

「フィオナ様、それ本日3杯目ですけどね?」

「飲み過ぎですよ、フィオナ様」

 後ろに控える二人が嗜める様にそういうが、フィオナは聞く耳を持たない。

「改めて紹介。こっちの赤いのラビ。こっちの緑のチシャ。付き人。以上」

「ちょっ、雑過ぎませんか!? あとなんでビーカー!?」

 研究棟に初めて入ったらしいゼノはこの状況に耐えきれず、コーヒーの入ったビーカーを片手にツッコむ。

「リリ、変?」

「研究棟では割と普通ですね。完徹3日目のコーヒーは染みますね。私はとりあえずブドウ糖これでもかってくらい入れますわ」

「……リリも普通だって。わんこ慣れ、大事」

 ぐっと親指を立て、フィオナはゼノに慣れろという。

「わんこって俺!?」

「フィー名前覚えるの苦手。3文字以上無理。わんこっぽいからわんこ」

 しれっとそういうフィオナに、

「俺本名ゼノですけど!? 増えてますけど文字数!?」

 ゼノはそう抗議する。

「わんこ、うるさい」

「クライアン副隊長、あきらめてください。ここではみんなそうなので。ちなみに私の本名はラビではなくエミリア・ハートネットです」

 ラビと呼ばれていた赤髪の魔導師エミリアはそう言って本名を名乗り、ゼノをたしなめる。

「ラビはぁ、さみしんぼでウサギっぽいからラビ。チシャは気まぐれで猫っぽいからチシャ。ルーくんの弟はクロにするー」

 ミルクティーを飲み切ったフィオナはおかわりちょーだいとチシャと呼んだ緑の髪の魔導師、サーシャに頼む。

「いけません、飲み過ぎです。虫歯になりますよ?」

「お客様来てるから、特別。お願い?」

 小首をかしげてキラキラした視線を送れば、ぐっとサーシャは怯む。

「こんなにお願いしても……ダメ?」

 さらに畳みかけるようにフィオナが言えば、

「ぐっ、今日だけですからね?」

 とビーカーを受け取り淹れに行った。

「みんな素直。この姿便利」

 リーリエにブイっとピースをして見せる。

「分かります! 可愛いは正義っ!!」

 ぐっと前のめり気味にリーリエは話に乗る。

「可愛いしか勝たん。フィー可愛いが好き。大魔導師就任して一番に制服改革した」

 どうやら魔導師が着る第一騎士団の制服が着崩されているのはフィオナの趣味らしい。

「リリの魔術師服、絶対領域いい感じ」

 好きっとフィオナが親指を立ててリーリエの衣装を褒める。

「フィーの衣装も素敵ですよ。今度ぜひドレスを送らせてください。むしろ全身着飾らせてくださいませ」

「いいよー。じゃあ、フィーはリリにスリットがっつり入ったセクシー系ドレスプレゼントする」

 しばし、二人で可愛いについて語り合う様子を見て、ゼノが隣のテオドールにぼそっと漏らす。

「俺ら、何見せられてるんすかね?」

「さぁな」

 普段からリーリエが衣装と可愛いにこだわり、語る姿を見るのに慣れているテオドールは、特に気にするでもなくそう言ってゼノの疑問をスルーした。
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