生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

70.生贄姫は甘やかされる。

 こんな時間に何しているんだろう、とリーリエは何度目になるかわからない疑問を浮かべる。
 テオドールに連れて行かれた先は浴場で、そこで待ち構えていたアンナをはじめとした侍女達に有無を言わさず湯浴みをさせられた。

『髪のケアを怠りましたね』

 と叱られ、ヘッドスパとトリートメントを施されたり、

『目の下にクマができてます!』

 と怒られ、ホットアイマスクとフェイシャルマッサージ、パックを施術されたり、

『身体ガッチガチ、おみ足が浮腫んでいるではないですか!!』

 と呆れられ、全身マッサージとアロマエステを施されたりと、かれこれ2時間以上身体を磨かれ続けている。

 溜まりに溜まった疲労が癒やされうとうととうたた寝し始めた頃、

「さぁ、いいですよ」

 アンナに声をかけられ目を開ける。

「軽くお化粧もしておきましたが、今日はそのまま寝ても大丈夫ですよ。肌に優しいものなので」

 新作ですと自信ありげにアンナが笑う。

「いい、香り」

「うちの調香師たちの新作です。リーリエ様が少しでも肩の力が抜けるように、癒やしとリラックスをテーマに作ったそうです」

「私の……ため?」

「ええ、もちろん。私たちの自慢のいつも頑張っているかっこ良くて美しい女主人のためですよ」

 差し出された鏡に映ったその人は、全身磨かれ美しく調整された綺麗な女性。

「リーリエ様が私達を大事にしてくださるように、私達も持ち得る全ての力で最大限あなたが闘えるようにお支えしたいのです」

 泣きそうな顔のリーリエに、アンナは優しく笑うと、

「さぁ、淑女らしく笑ってくださいませ。リーリエ様」

 シンプルでふわりと揺れるワンピースを着たその肩にショールをかける。
 リーリエは泣きそうな顔に喝を入れ、ヒールを履いてカツンと鳴らして立ち上がる。

「ありがとう。気合い、入った」

 くるりと回って、ワンピースの裾を持ち完璧なカテーシーをしてみせる。
 淑女として最大限の礼で応え、リーリエは背筋を伸ばして笑って見せた。

「ええ、それでこそリーリエ様です。はい、じゃあお疲れが取れたところで食堂へ向かいましょう」

「……いや、あの、時間がっ」

「食べましょうね? お食事の準備が整っておりますので」

「あ、はい」

 美人が凄むと迫力があるなと苦笑して、リーリエは大人しく食堂に向かった。
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