生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「……リーリエ、人のこと蓄電池か何かだと思ってないか」

「この場合は似たようなものでしょう」

 きっぱり言い切るリーリエは、曇りなく笑う。

「旦那さまとお話ししていると、大抵のことが解決に向かいますね! 流石最推し。見ているだけで癒される」

 勢いよくベッドから起き上がったリーリエは、

「魔術式描いてもいてもいいですか!? 忘れちゃう前に形作りたい!!」

 わくわくと効果音がつきそうなくらい楽しそうに笑ってそういった。

「大人しく寝るんじゃなかったのか?」

「無理! 今! 今すぐ描きたい!!」

 これは寝てなさ過ぎてハイになっているなとテオドールは苦笑する。
 紙とペンを渡してやると、リーリエはそれを床に広げそのまま楽しそうに描き始める。
 その横顔は2人で晩酌をしたときに未来を語ったリーリエの顔と全く同じで、テオドールはそんな彼女を愛おしそうに見つめる。
 テオドールにそんな目で見られているなど気づきもしないリーリエは、思いついた魔術式を組み立てて描き上げていく。
 そうして空が白み始めたころ、リーリエの手がようやく止まった。
 床に散らばったリーリエの描き上げた最適解は、複雑で、難解で、いくつものパーツに分散された魔法陣であったけれど、とても美しいものだった。

「できたっ」

 と同時に電池が切れたかのようにリーリエはそのまま床で寝落ちする。
 まるで手のかかる子どもだなと苦笑したテオドールはリーリエを抱え上げ、ベッドに運ぶ。
 安心しきって寝息を立てるその顔を見ながらテオドールは思う。
 やっぱり家族のもとに返却してやれそうにないな、と。
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