生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

74.生贄姫は依頼を完遂する。

 フィオナとの約束の日、リーリエは騎士団闘技場で魔術式を起動する。
 イメージしたのは前世では当たり前だったSNSのグループ一斉送信。
 この世界でスキル判定を受けた者なら誰もが使える"ステータス"という魔法。リーリエが作ったのはそれを活用した魔術式。
 送信側は付与する魔法をステータスの個別番号を元にグループ化した送付先へ時間予約をし定期的に自動送付。
 受信側はステータス画面に付与された魔法を受け取り自動展開するよう魔術式を組み込む。
 王都全域をカバーするために要所要所に基地局の役割を果たす術式を組んだ魔石を設置する事で遠隔操作を可能とした。

「これでご指定の要件は満たせているかと思うのですが、いかがでしょうか?」

 リーリエは構築した術式の説明を行い、フィオナに尋ねる。

「ん、いい感じ。良くできてる」

 フィオナは細かく作り込まれた術式を見てそう答える。

「こんな、魔術式の組み合わせ初めて見ました。すごく繊細で、きれいに編み込まれた魔法陣ですね」

 実際に送受信のやりとりをしてみたサーシャが感嘆の声をあげる。

「お褒め頂きありがとうございます。ただこれ容量が大分重いので、送信側は高魔力保持者限定で一方的に送る事しかできないのが難点なんですが。今は旦那さまの魔力値に合わせて調整しているので、実際操作される魔導師の方に合わせて調整、起動実験を行っていきたいと思っています」

 前世での知識や経験、自分に足りない魔力をテオドールから貸与された事で作ることができた魔術式は概ね好評のようでリーリエはほっとする。

「あなた、よくこんな複雑な魔術式こんな短時間で編めたわね」

 リーリエに対して好戦的であったエミリアも素直に驚きの声を上げる。

「今回は随分と旦那さまに助けて頂きましたから」

「なる、ほど」

 フィオナはじっとテオドールの方に視線を送り、

「リリ……クロの魔力、どれくらい抜いた、の?」

 と尋ねる。

「旦那さまが体内で保有できる魔力丸2日分、と言ったところでしょうか?」

 しれっとリーリエはそう答える。
 通常身体からそれだけ大量の魔力を一気に抜いたら立っていることすら難しい。

「クロ……哀れ」

 2人に交互に視線を送ったフィオナは、ドンマイっとテオドールに親指を立てる。

「つまり、テオドール殿下の事をバッテリー扱いしたと」

 尋常じゃない量の魔力を抜かれていることにぞっとしつつ、前回会った時テオドールのことを敬愛してるとか侮辱は許さないとか言ってなかったっけ? とエミリアは首を傾げる。

「複雑で重たい術式でしたので、どうしても魔力が必要で。旦那さまは快く使わせてくださいましたよ?」

 慰謝料案件の支払いに魔力を要求されたテオドールに断れる選択肢はなく、魔術師として一切妥協しないリーリエにアレコレ実験に付き合わされた。
 高魔力保持者とは言え流石のテオドールもやや気だるさを感じるが、リーリエの納得できるものができたので良しとした。
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