生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「何故、大魔導師にトーマス・デンバーのことを尋ねた?」
トーマス・デンバー。現在の第一騎士団隊長。侯爵家出身の嫡男。順調に出世街道を進んでおり、騎士団上層部の期待と信頼が厚い。
「ルゥの置き土産を精査していくうちに、矛盾と魔術省との繋がりを見つけましたので。侯爵家としては中立派でも、本人がそうとは限らないですから」
リーリエは尋ねられたことに淡々と答えた。
騎士団に所属しながら仕える相手は国でも全権代理者でもない可能性もある。
例えば、同じ王族であっても第2王子に忠信を誓っている可能性。リーリエとしては気になる芽は早めに把握してしておきたい。
そんなリーリエに、テオドールは忠告をする。
「アレには手を出すな。アレは俺の獲物だからな」
ルイスからの依頼。
『龍のアキレス腱を落とすこと』
ルイスの管轄外の龍は魔術省の紋章。そこと深く関わる騎士団上層部を洗ってテオドールがたどり着いた答えと何も聞く事なくそこに辿り着いたリーリエ。
上がった人物が一致しているなら、まず間違いないだろうとテオドールは確証を得る。
ルイスは"狩れ"とは言わず、"躾が必要"と言った。ここからが面倒だなとため息を漏らした。リーリエはそんなテオドールの様子を見て、"気がかり"と"やるべき事"が何であるかを知る。
「承知いたしました。ただ、もし私の案件に掛かる事があれば、可能な範囲で情報をください」
リーリエはそう言ってあっさり手を引く。
「旦那さまは、着々と道を進まれているご様子。私としても望外の喜びでございます」
「アレの側近になるにはまだ大分かかりそうだがな」
くすりと笑みを漏らしたリーリエに、テオドールはなんて事もないようにそう返す。だが、リーリエは言葉とは裏腹に少しだけ寂しさを感じる。
相談されなかったという事は、テオドールはルイスからの依頼を自力で読み解き答えを見つけたのだろう。テオドールはどんどん先に進んでいく。
彼を解放するまでと自身で決めた期限だが、3年もいらないかもしれないなとリーリエは思った。
「旦那さま、お身体はもう平気ですか?」
「容赦なく魔力抜いていった奴のセリフじゃないな」
「慰謝料ですから」
平気そうで良かったですとリーリエは鈴の鳴るような声で笑う。
「人の事を訳あり物件だの蓄電池だのと、本当に酷い妻だ」
とテオドールは楽しそうに苦言を漏らす。
「その上性格に難があって、すぐ暴走して、相手を振り回して、話を聞かない。とんでもない悪妻を引きましたね、旦那さま」
リーリエは楽しそうに応酬してくる。
こんなやり取りを幾度となく重ねてきた日常をリーリエは愛おしく思う。
「リーリエ」
そして、今はただテオドールに名を呼ばれるだけで、胸がきしむほどに痛む。
「続きを、話してもいいだろうか?」
ああ、こんな日々が終わるのか。
翡翠色の瞳を瞬かせ、リーリエはゆっくり頷いた。
トーマス・デンバー。現在の第一騎士団隊長。侯爵家出身の嫡男。順調に出世街道を進んでおり、騎士団上層部の期待と信頼が厚い。
「ルゥの置き土産を精査していくうちに、矛盾と魔術省との繋がりを見つけましたので。侯爵家としては中立派でも、本人がそうとは限らないですから」
リーリエは尋ねられたことに淡々と答えた。
騎士団に所属しながら仕える相手は国でも全権代理者でもない可能性もある。
例えば、同じ王族であっても第2王子に忠信を誓っている可能性。リーリエとしては気になる芽は早めに把握してしておきたい。
そんなリーリエに、テオドールは忠告をする。
「アレには手を出すな。アレは俺の獲物だからな」
ルイスからの依頼。
『龍のアキレス腱を落とすこと』
ルイスの管轄外の龍は魔術省の紋章。そこと深く関わる騎士団上層部を洗ってテオドールがたどり着いた答えと何も聞く事なくそこに辿り着いたリーリエ。
上がった人物が一致しているなら、まず間違いないだろうとテオドールは確証を得る。
ルイスは"狩れ"とは言わず、"躾が必要"と言った。ここからが面倒だなとため息を漏らした。リーリエはそんなテオドールの様子を見て、"気がかり"と"やるべき事"が何であるかを知る。
「承知いたしました。ただ、もし私の案件に掛かる事があれば、可能な範囲で情報をください」
リーリエはそう言ってあっさり手を引く。
「旦那さまは、着々と道を進まれているご様子。私としても望外の喜びでございます」
「アレの側近になるにはまだ大分かかりそうだがな」
くすりと笑みを漏らしたリーリエに、テオドールはなんて事もないようにそう返す。だが、リーリエは言葉とは裏腹に少しだけ寂しさを感じる。
相談されなかったという事は、テオドールはルイスからの依頼を自力で読み解き答えを見つけたのだろう。テオドールはどんどん先に進んでいく。
彼を解放するまでと自身で決めた期限だが、3年もいらないかもしれないなとリーリエは思った。
「旦那さま、お身体はもう平気ですか?」
「容赦なく魔力抜いていった奴のセリフじゃないな」
「慰謝料ですから」
平気そうで良かったですとリーリエは鈴の鳴るような声で笑う。
「人の事を訳あり物件だの蓄電池だのと、本当に酷い妻だ」
とテオドールは楽しそうに苦言を漏らす。
「その上性格に難があって、すぐ暴走して、相手を振り回して、話を聞かない。とんでもない悪妻を引きましたね、旦那さま」
リーリエは楽しそうに応酬してくる。
こんなやり取りを幾度となく重ねてきた日常をリーリエは愛おしく思う。
「リーリエ」
そして、今はただテオドールに名を呼ばれるだけで、胸がきしむほどに痛む。
「続きを、話してもいいだろうか?」
ああ、こんな日々が終わるのか。
翡翠色の瞳を瞬かせ、リーリエはゆっくり頷いた。