生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
84.生贄姫は救出される。
いきなり現れたテオドールを訝し気に見つめて、ヘレナートは話しかける。
「おっかしいなぁ。騎士団はまだ仕事中じゃない?」
「俺のノルマはとっくに終わらせてんだよ。仕事を放り投げる夫など願い下げって、うちの妻は手厳しいんでな」
テオドールは愛刀を構えると対峙するヘレナートを睨む。
「これは、俺のだ。人の物傷つけやがって、覚悟できてんだろうな?」
「んー僕、中身の人格は別に要らないんだけどね? ルカのために外身が欲しいだけなんだけど、全属性状態異常ブロック所持のギフティ相手じゃ今日は分が悪そうだ」
ニコニコッと子どもの様に笑ったヘレナートは空中の魔法陣を消失させる。
「その子は預けとくよ。でもいずれ返してね、まだ実験の途中だから♪」
くるっと背を向けて歩き出したヘレナートを追いかけようとしたテオドールの袖をリーリエが掴む。
首を振る彼女を見て、テオドールは剣を収めた。
「リーリエ、無事か?」
その顔面は色を失い、肩で息をするリーリエは口元を抑えて首を振る。
「頭痛い、気持ち悪い、吐き……そう」
いつもの淑女らしさはどこにもなく、ドレスはボロボロで素足は傷だらけ。
カタカタと震えるリーリエを抱きかかえて、テオドールはその背をさする。
「名前、呼んで。自分が、誰か……分からなくなりそうで、怖い」
テオドールの首に弱弱しく腕をまわしたリーリエは囁くようにそう懇願する。
「リーリエ。リーリエ・アシュレイ・アルカナ。俺の妻。愛称はリィ。リーリエ、大丈夫だから。リィと出会ってからのことは俺が全部覚えている。もしリィが分からなくなっても、俺が捕まえるから。安心して、少し休んでろ」
テオドールは優しい声音でそう言って、あやすみたいに背中をポンポンと叩く。
テオドールの声と自分以外の人の熱に安堵したリーリエは、ほっと息を吐く。
「ごめん、なさい」
「生きていたならそれでいい」
テオドールは事情を聴くことも追及することもなく、なるべくリーリエの負担にならないように慎重に歩く。
空から泣き出したように振り続ける雨は、未だに止む気配がない。
なるべく早くリーリエを休ませてやりたいテオドールは屋敷ではない方向に歩みを進めだす。
「……旦那さま」
少しだけ落ち着いてきたリーリエは、つぶやくようにテオドールに話しかける。
「どうした?」
「助けに来てくれて、ありがとうございます」
弱弱しく絞り出されたその声が、今にも消えてしまいそうでテオドールは不安になる。
「……今日は、やけに素直だな」
「……いきなり本命引き当てるのは、正直想定外でした」
もう無理かと思っていたのに、テオドールが現れたときは奇跡かと思った。
そして、約束を守ってくれる彼はやっぱり推せるなと、リーリエは小さく笑う。
「あとで、突拍子もない話、してもいいですか?」
「リィの話は大概突拍子もないか奇天烈だから、今更だな」
「ひどいなぁ、私の旦那さまは」
「話はあとで聞く。とりあえず休め」
テオドールの言葉にうなずいたリーリエは目を閉じてヘレナートと対峙して、分かったことを整理する。
物語のピースに足りないものを探しながら、ゆっくりと意識を手放した。
「おっかしいなぁ。騎士団はまだ仕事中じゃない?」
「俺のノルマはとっくに終わらせてんだよ。仕事を放り投げる夫など願い下げって、うちの妻は手厳しいんでな」
テオドールは愛刀を構えると対峙するヘレナートを睨む。
「これは、俺のだ。人の物傷つけやがって、覚悟できてんだろうな?」
「んー僕、中身の人格は別に要らないんだけどね? ルカのために外身が欲しいだけなんだけど、全属性状態異常ブロック所持のギフティ相手じゃ今日は分が悪そうだ」
ニコニコッと子どもの様に笑ったヘレナートは空中の魔法陣を消失させる。
「その子は預けとくよ。でもいずれ返してね、まだ実験の途中だから♪」
くるっと背を向けて歩き出したヘレナートを追いかけようとしたテオドールの袖をリーリエが掴む。
首を振る彼女を見て、テオドールは剣を収めた。
「リーリエ、無事か?」
その顔面は色を失い、肩で息をするリーリエは口元を抑えて首を振る。
「頭痛い、気持ち悪い、吐き……そう」
いつもの淑女らしさはどこにもなく、ドレスはボロボロで素足は傷だらけ。
カタカタと震えるリーリエを抱きかかえて、テオドールはその背をさする。
「名前、呼んで。自分が、誰か……分からなくなりそうで、怖い」
テオドールの首に弱弱しく腕をまわしたリーリエは囁くようにそう懇願する。
「リーリエ。リーリエ・アシュレイ・アルカナ。俺の妻。愛称はリィ。リーリエ、大丈夫だから。リィと出会ってからのことは俺が全部覚えている。もしリィが分からなくなっても、俺が捕まえるから。安心して、少し休んでろ」
テオドールは優しい声音でそう言って、あやすみたいに背中をポンポンと叩く。
テオドールの声と自分以外の人の熱に安堵したリーリエは、ほっと息を吐く。
「ごめん、なさい」
「生きていたならそれでいい」
テオドールは事情を聴くことも追及することもなく、なるべくリーリエの負担にならないように慎重に歩く。
空から泣き出したように振り続ける雨は、未だに止む気配がない。
なるべく早くリーリエを休ませてやりたいテオドールは屋敷ではない方向に歩みを進めだす。
「……旦那さま」
少しだけ落ち着いてきたリーリエは、つぶやくようにテオドールに話しかける。
「どうした?」
「助けに来てくれて、ありがとうございます」
弱弱しく絞り出されたその声が、今にも消えてしまいそうでテオドールは不安になる。
「……今日は、やけに素直だな」
「……いきなり本命引き当てるのは、正直想定外でした」
もう無理かと思っていたのに、テオドールが現れたときは奇跡かと思った。
そして、約束を守ってくれる彼はやっぱり推せるなと、リーリエは小さく笑う。
「あとで、突拍子もない話、してもいいですか?」
「リィの話は大概突拍子もないか奇天烈だから、今更だな」
「ひどいなぁ、私の旦那さまは」
「話はあとで聞く。とりあえず休め」
テオドールの言葉にうなずいたリーリエは目を閉じてヘレナートと対峙して、分かったことを整理する。
物語のピースに足りないものを探しながら、ゆっくりと意識を手放した。