生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
88.生贄姫は恩人と邂逅する。
「神聖な書庫でイチャつかないで欲しい」
じっとテオドールを見上げるフィオナは開口一番にそう言った。
「してねぇよ」
「リリ、髪型変わってる」
なおもじとーっとテオドールを非難するような視線を送りながら、椅子に座って持ってきた研究記録に視線を落としているリーリエに抱きつき、
「”可愛い”は鑑賞して愛でる、の。いじめちゃ、めっ」
よしよしと頭を撫でた。
読む事に集中しているリーリエはされるがままで、テオドールに対するフォローもなく、テオドールはため息を吐くしかなかった。
「フィー、何故これがここに?」
「……アリス、書庫に巣作ってたからかも」
「神聖な書庫に住み着くのは良いのか?」
「研究、ならあり」
異界の書庫は大魔導師がドアを繋げればどこでも開かれるらしい。
一時共に生活していた時の事を懐かしむように、フィオナは語る。
「研究記録、というより日記に近いですね」
「研究過程は、大抵他人に読み解かれないよう偽装する。アリスは、日記風だった。リリは違う?」
「私、記録残さない派なんで。検証や実験記録以外は基本全暗記ですね」
暗殺者スキル持ちはそのスキル特性から非常に記憶力がいい。スキルレベルを上げる訓練の一環として、リーリエは基本的に暗記を心がけていた。
「日記は日記で気になる事が書いてあるのですが、ここに出てくるフィオナ・クローディア・ノワールって、フィーでしょうか?」
ノワールの名前に反応し、フィオナは露骨に嫌そうな顔をし、テオドールは訝し気に眉を顰めフィオナを見る。
数秒視線を空に彷徨わせたフィオナはため息をついて、
「随分、前の話。今は除籍されて、ノワールにはフィーの存在自体がない」
そう吐き出した。
「フィーは、馴染めなかった。魔術師も、魔術省も、全部。あの一族に。フィーは、逃げるように……カナンに渡って、アリスに出会った、の。”そんな家族捨てちゃえば?”って、アリスが言うから……二人で、冒険者やって、やんちゃしてたら、除籍された。……正直、縁が切れて清々する」
「なるほど、それもあって魔術省とは冷戦なのですね」
「あのモノクル嫌い。カチ割りたくなる。魔導師になったのは、フィーなりの意趣返し」
「ふふ、反抗期なのですね」
「そ、フィーは万年反抗期。永遠の14歳だから」
いつもと変わらないローテンションで淡々と語るフィオナの口調から、それが彼女の本心なのだと分かる。魔術師の家系に生まれながら、魔術師にならず存在自体を除籍された過去は、フィオナの中ではただの過去でしかないのだろう。
「では、幼少期の第2王子とお会いしたことはないのですか?」
フィオナがノワール家の親戚筋なら会ったことがあるかもしれないと、念のため聞いてみるがフィオナは首を横に振る。
「フィー除籍されているから、本家立ち入れない。でも……見かけたことはある、かも」
フィオナの赤眼がリーリエを翡翠色の瞳を覗きこむ。
言うべきか、言わざるべきか随分迷ってフィオナは重い口を開けた。
じっとテオドールを見上げるフィオナは開口一番にそう言った。
「してねぇよ」
「リリ、髪型変わってる」
なおもじとーっとテオドールを非難するような視線を送りながら、椅子に座って持ってきた研究記録に視線を落としているリーリエに抱きつき、
「”可愛い”は鑑賞して愛でる、の。いじめちゃ、めっ」
よしよしと頭を撫でた。
読む事に集中しているリーリエはされるがままで、テオドールに対するフォローもなく、テオドールはため息を吐くしかなかった。
「フィー、何故これがここに?」
「……アリス、書庫に巣作ってたからかも」
「神聖な書庫に住み着くのは良いのか?」
「研究、ならあり」
異界の書庫は大魔導師がドアを繋げればどこでも開かれるらしい。
一時共に生活していた時の事を懐かしむように、フィオナは語る。
「研究記録、というより日記に近いですね」
「研究過程は、大抵他人に読み解かれないよう偽装する。アリスは、日記風だった。リリは違う?」
「私、記録残さない派なんで。検証や実験記録以外は基本全暗記ですね」
暗殺者スキル持ちはそのスキル特性から非常に記憶力がいい。スキルレベルを上げる訓練の一環として、リーリエは基本的に暗記を心がけていた。
「日記は日記で気になる事が書いてあるのですが、ここに出てくるフィオナ・クローディア・ノワールって、フィーでしょうか?」
ノワールの名前に反応し、フィオナは露骨に嫌そうな顔をし、テオドールは訝し気に眉を顰めフィオナを見る。
数秒視線を空に彷徨わせたフィオナはため息をついて、
「随分、前の話。今は除籍されて、ノワールにはフィーの存在自体がない」
そう吐き出した。
「フィーは、馴染めなかった。魔術師も、魔術省も、全部。あの一族に。フィーは、逃げるように……カナンに渡って、アリスに出会った、の。”そんな家族捨てちゃえば?”って、アリスが言うから……二人で、冒険者やって、やんちゃしてたら、除籍された。……正直、縁が切れて清々する」
「なるほど、それもあって魔術省とは冷戦なのですね」
「あのモノクル嫌い。カチ割りたくなる。魔導師になったのは、フィーなりの意趣返し」
「ふふ、反抗期なのですね」
「そ、フィーは万年反抗期。永遠の14歳だから」
いつもと変わらないローテンションで淡々と語るフィオナの口調から、それが彼女の本心なのだと分かる。魔術師の家系に生まれながら、魔術師にならず存在自体を除籍された過去は、フィオナの中ではただの過去でしかないのだろう。
「では、幼少期の第2王子とお会いしたことはないのですか?」
フィオナがノワール家の親戚筋なら会ったことがあるかもしれないと、念のため聞いてみるがフィオナは首を横に振る。
「フィー除籍されているから、本家立ち入れない。でも……見かけたことはある、かも」
フィオナの赤眼がリーリエを翡翠色の瞳を覗きこむ。
言うべきか、言わざるべきか随分迷ってフィオナは重い口を開けた。