生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
 ドアを開けたテオドールは自分の執務室でトランプタワーを組み立てているルイスにため息をつく。

「暇かっ! 他所でやれ」

 テオドールの声で集中が切れたルイスの手元が狂い、最後の一段が完成する前に全ての段が崩れ去る。

「あーもう少しだったのに」

 あーあーと不満いっぱいの声を上げて、ルイスがテオドールの方を向く。

「はぁ、テオはいいよなー新婚で。新妻は18歳の才女で、可愛くて? 眠れない夜を過ごしてるみたいだなぁ。生殺しで手出さないテオ偉いわー。お兄ちゃん感心するー。俺なら無理ー」

 やややさぐれ気味に絡んでくるルイスに面倒臭そうにテオドールは眉間に皺を寄せる。

「勝手に人の表情読んで勝手に悟って勝手に同情するのやめろ。本当面倒な奴だな」

 わざわざそんな事言いに来たのかと不機嫌なオーラを隠す事なく、テオドールがルイスを睨む。

「テオ、カナンの宰相と交渉して来た俺にもっと感謝と敬意を示して平伏してくれて良いんだぞ。むしろ褒め称えろ」

 そんなテオドールに向かって、ルイスはバサバサっと雑に書類を数枚放り投げた。

「リリのこと、随分大事にしてるみたいだから、それはそれはお兄ちゃんメンタル削って頑張りました。ってわけだから、お前の珍しい容姿目当てで寄って来た後腐れないテキトーな過去の相手とリリの事を同列に並べることがあれば、おっさんの手を煩わせることなく俺が社会的にテオのこと抹殺するから」

「……コレは?」

「リリが勢力争いに巻き込まれて怪我したことでブチギレたアシュレイ公爵との会談結果。政略結婚の条件変更書。いくつか条件飲まされたけど、まぁ辛うじてリリとの結婚生活継続決定。おめでとう」

 あーしんどかったと大袈裟にそう言うルイスと放り投げられた書類を見て、自身の結婚生活が終わりかけていたことをテオドールは初めて知った。
 知らない間にルイスに大きな借りができてしまっていたらしいと知り、今後どんな仕事が降ってくるのか考えて、やめた。ルイスが持ってくる案件なんて、どうせろくでもない内容しかないのだから。

「リーリエの後ろには厄介で面倒で過保護な保護者多すぎだろ」

「テオ、それ割とお前もブーメランだから」

 いやいやいやと手を振ってリーリエに対してかなり過保護で慎重になっているテオドールに呆れたようにそう言った。

「って、わけだから。リリの専属の方は自分でなんとかしろ。アレもだいぶ拗らせてるから」

「既にかなり牽制されてるがな」

 ここ数日のラナの態度と取り扱いに苦労しているテオドールはため息混じりにそう漏らす。
 よほどリーリエを連れて帰りたいのだろう。おかげで屋敷の使用人たち特にアンナと随分揉めていた。

「まぁ、なんとかする。リーリエも今のところ帰る気ないらしいし」

 先日のやり取りを思い出し、深く深くため息をついたテオドールは、リーリエの取り扱いもどうしたものかと頭を悩ませる。
 無自覚で無防備に人の事を振り回すリーリエから主導権を取り返しておかないと、色々しんどい。
 いっそのこと職場に寝泊まりしてしまいたくなるが、それはそれでリーリエが心配というジレンマを抱え、結局本邸に戻る選択しかないのだった。
< 194 / 276 >

この作品をシェア

pagetop