生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
 夕食後。
 リーリエも入れて3者面談にしようかと思っていたのだが、ラナの希望で2人で話すことになったテオドールは紅茶を飲みながらラナが話し出すのを待っていた。

「随分、お噂とは違うのですね」

 本来なら一介の従者が一国の王子と向かって紅茶を飲むなんてあり得ないだろう、とラナは思う。
 リーリエなら話は別だがと、本来の主人とよくこうしてお茶をしていた事を思い出し、それが既に遠い昔のように感じられ、寂しさが湧く。

「この半年、色々あったからな」

 言葉にしながらまだたった半年なのか、と濃い日々だったなと苦笑する。

「大方の噂は弁明のしようがないし、こんな悪評高い男の元に大事な主人は嫁がせたくなかった、と言うのが本音だろう」

 リーリエがどれだけ大事に育てられたのか彼女から聞いて知っているし、屋敷の使用人たちを見れば、彼女を慕うものが多かったであろう事も容易に想像がつく。
 それでも、もうリーリエのことは手放せない。

「リィの名誉のために言っとくけど、手は出してないから」

 苦笑しながら、テオドールはラナに事実を述べる。

「何故、私にそれを?」

「そろそろリィを引き取って欲しい。あいつの謎の信頼のせいで寝不足なんだ」

 割とマジなトーンでテオドールにそう言われてラナははっ? と固まる。

「何せ恋愛偏差値初等部以下だからな」

 そんなラナを見て、揶揄うようにテオドールはそう言った。

「……聞いたんですね」

 頭を抱えるように額に手をやって、ラナはため息混じりにそう返す。

「この際ですから、失礼を承知でいいますが、物珍しさで中途半端に手を出さないでください。殿下ほどの方なら、いくらでも相手は望めるでしょう?」

 凛と姿勢を正し、ラナはそう言う。

「あの方は自分のためと言いながら、他者の最大幸福と利益を追求し、効率的に物事を進めて、そこに自分の感情を含めません。そうしていつも、身を引くんです。最初から、自分なんて存在しなかったみたいに」

 そんな事は言われるまでもなく知っている。
 最愛の推しだと言いながら、いつも別の相手との未来を薦められてきた。

「そうやって、まるで自分の事を罰しているみたいに。たった、一握りの幸せさえ求めない。きっと、今回もいずれはココを去るのでしょう」

 そうなのかもしれない。
 これから先の約束はできない、と。

「この身を救って頂いた日から私の命はあの方に預けたままで、私にとって、大切な方なのです。どうか、一時の感情でリィ様のお心を乱すような事はしないで頂きたい」

 テオドールは真剣な目で牽制するラナに、覚悟を問われた気がした。
< 197 / 276 >

この作品をシェア

pagetop