生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「俺も必死なんだよ。リィの返事は"保留"だから」

 約束はできなくても、一緒にいられるかもしれない夢をみたいと言われたから。
 テオドールはその言葉を信じたいと思う。

「保留? ですか」

 ラナはテオドールの言葉に目を丸くする。

「簡単に隣を歩かせてくれるような相手じゃないだろ? リィは」

 だからできる精一杯で今を足掻く。積み重ねた先に、望む未来があると信じて。

「生贄姫も死神も必要のない平穏な毎日が過ごせるようになるその日が来ても、隣で笑っていて欲しい。翡翠色の瞳が、子どもみたいにワクワクしながら面白い事をやらかすのを見ていたい。悪いが、誰であっても譲れない。それが、今の俺の目標だから」

 テオドールはとても穏やかに笑ってそう言った。
 ラナはテオドールをじっと見る。
 "夢"ではなく、実現させる"目標"だと言い切った。
 ラナはリーリエの人を見る目を信じている。
 即断即決のリーリエが"保留"を出した時点で、もう答えなんて決まっているのだろう。
 ラナはふっと相好を崩す。

「忘れないでくださいね。今の言葉」

 大事な主人は、未来を歩きたい人を見つけたらしい。同じ方向を向いているのなら、これ以上言うことはないだろう。

「もしそんな日が来て、この屋敷で使用人の求人が出た際にはぜひカナンのアシュレイ公爵家までご一報ください。私、かなり有能ですよ?」

 何せ長年リィ様付きができるくらいですからと自信ありげにラナは胸を張る。

「リィ付きは倍率高いぞ。人気職だから」

「望むところです。アシュレイ公爵家も実力主義ですから」

 ラナは綺麗に笑って了承した。

「ああ、それとテオドール殿下にリーリエ様のお祖父様であるジード様から御伝言を承っております」

 恭しく礼をしたラナは、

「"お前のような未熟者に大事な孫娘がやれるか! 首を洗って待ってろ、クソガキが"だそうです。結婚式が無事に終わることをお祈りしております」

 ニコッと笑って、御伝言あれば承りますが? と尋ねる。

「"誰が返すかクソジジイ。返り討ちにしてやるから覚悟しとけ"って言っておいてくれ。あのジジイ全然変わってねぇじゃねぇか」

 ちっと舌打ちして好戦的にそう言ったテオドールに確かに承りましたと伝える。

「リィ様はテオドール殿下が兄弟子だとご存じなのです?」

「言ってない。俺も知ったの偶然だしな」

 ジジイにボロクソにやられてた時の話なんかできるかと、そっぽを向いたテオドールを見て、ジードとテオドールが一緒に並んでいる近い未来を想像しラナはクスクスと声を立てて笑った。
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