生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
 ラナの手助けを受け、情報を整理し終わったリーリエはいくつもいくつも点在するキーワードを繋げながら、物語の仮説を立てる。
 この物語が結末を迎えたとき、ストーリーのその先空白の中で自分は何を手にするのだろう? と、リーリエは自身の指先を見つめた。

「リィ、ルイスが来たが」

 テオドールの声かけに顔を上げたリーリエは、

『リィ様の描く未来が、幸せなものでありますように』

 そう言って帰って行ったラナの耳打ちを思い出し、赤面しそうになる。

『面倒臭くて拗らせてるリィ様に付き合ってくださる方など、テオドール殿下以外いないと思いますので、連れ戻される前に既成事実を作っておく事をお勧めします』

 テオドールと何を話したのかは知らないが、テオドールの事を気に入ったらしいラナの余計な助言のせいで、青と金の目と合うだけで激しく逃げたい衝動に駆られる。

「どうした、リィ? 顔が赤いが」

「なんでもないです、すみません」

 口元を覆って目を逸らすリーリエに訝しげな視線を送ってくるテオドール。
 そんな彼の視線を感じ、居た堪れないリーリエは、

『……既成事実って。もうっ!』

 意識するなというほうが無理だ。本当に余計な置き土産をとラナのことを恨めしく思った。



 複雑そうな表情を浮かべ、応接室で待っていたルイスに、リーリエは淑女らしくカテーシーをして見せる。

「アルカナ王国全権代理者、ルイス王太子にカナン王国が魔術師リーリエ・アシュレイがご挨拶申し上げます」

 魔術師の正装はしていないが、親しい友人としてではなく、魔術師として名乗るリーリエにルイスは盛大にため息をつき、

「……リリ、ダメだから」

 即刻ダメ出しをする。

「でも、向こうは正式に魔術師として呼び出してるんでしょ? 私のこと」

 見透かしたように翡翠色の瞳がそう問う。

「行かせられない。大丈夫、断れるから」

 難色を示すルイスと眉間に皺を寄せているテオドールの視線を浴びながら、リーリエは笑う。

「やられっぱなしって、嫌じゃない? と、言うわけだから、私リベンジマッチを挑もうと思うの」

 リーリエはルイスの前に手を出して、

「そんなわけなので、ルゥが差し止めてるレオンハルト様からのラブレター、いい加減渡してくださるかしら?」

 ニコニコニコニコと効果音がつきそうなほど完璧な笑顔で、リーリエはルイスに迫る。

「俺、今日はリリの説明聞きに来ただけなんだけど」

「じゃ、説明聞いた後で頂戴。どうせ手元に持っているのでしょう?」

 お互いのやり口など嫌というほど分かり合っているのだから、誤魔化しなど効くわけもない。厄介で賢い義妹を前に、ルイスは深い深いため息をついて、

「とりあえず、話聞いてからな」

 と、とても嫌そうにそう言った。
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