生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
95.生贄姫は秘匿された物語を知る。
「仲が良いのはいいんだけど、イチャつくのは俺が帰ってからにしてくれる? リリ、そろそろ話の続きを聞きたいなぁ」
しばらくそんなやりとりを見ていたルイスは話を軌道修正する。
ようやく落ち着いたリーリエはわざとらしく咳払いをして、話を進める。
「物語、というのには、往々にしてヒロインが存在します」
対峙したヘレナートが言った。
あの魔法陣はレオンハルトの最愛の彼女の"願い"だと。
「そして、ヒロインはヴァイオレットさんだと思うのです」
リーリエはこの物語のヒロインの名前を告げる。
「理由は?」
「とても、似ていると思ったのです。レオンハルト様とヴァイオレットさんが」
ルイスの問いに、リーリエは短く答える。
「レオンハルト様は、双子なのではないですか?」
リーリエの問いに、ルイスは驚いたように目を見開く。
「ヴァイオレットさんが王女だとすれば、納得いく事も多いのです」
前世のゲームの記憶や、父がグラシエール子爵家とその令嬢を監視していた事から考えても彼女はアルカナの間者でほぼ間違いない。
それでもアシュレイ公爵家がおいそれと手を出せないのだとしたら、それは王族とそれに類する者に他ならない。
12年前のフィオナのカナンでの第2王子に似た女の子の目撃情報もその可能性を示していた。
「王家の名簿にその名を見た事はないが」
「ノワール侯爵家は魔術師の名家。その家系出身の王族だからこそ意図的に排除する、という事も往々にしてあるのですよ」
テオドールのその問いに、リーリエは淡々と答える。
「双子、というのは魔術師の家系においては歓迎されない事もあるのです。本当に理不尽で馬鹿げた話ですが」
この世界では、双子はその能力を分けた不完全体、などという迷信が存在する。
こと、その傾向は魔力を絶対とする魔術師の家系では強く見られた。
実際はそんなことはなく、魔力保有量も魔術師としての資質も個人の素質によるもので、それらについては既に証明がなされている。
それでも、ヒトというのは受け入れ難い事態に直面した時、理不尽に理由をつけたがるものらしい。
こんなはずではなかった、と。
「そんな、たかが双子というだけで存在を消されるなんてことあるものなのか?」
テオドールのその問いに、ルイスは額に手をやり、舌打ちをする。
「あるんだよ。実際に、お前も黒髪やオッドアイで忌み子なんて冗談みたいな理由で王城出されてるし、お前の母方一族全部消されてんだろうが」
なんで、いつもこうなんだろうなとルイスの嘆くようなつぶやきには嫌悪感が滲む。
「俺たちは、いつも大人の事情ってやつに振り回されて、その存在が奪われる。だから、嫌なんだよ。王家なんて」
賢い彼はこの王城でずっとその理不尽を見てきたのだ。妃同士の争いで命が害されるところも、腹違いの弟が追放されるところも。
国が腐敗して傾くのを肌で感じながら、無力だった子どもは、ただ見ている事しかできなかった。
しばらくそんなやりとりを見ていたルイスは話を軌道修正する。
ようやく落ち着いたリーリエはわざとらしく咳払いをして、話を進める。
「物語、というのには、往々にしてヒロインが存在します」
対峙したヘレナートが言った。
あの魔法陣はレオンハルトの最愛の彼女の"願い"だと。
「そして、ヒロインはヴァイオレットさんだと思うのです」
リーリエはこの物語のヒロインの名前を告げる。
「理由は?」
「とても、似ていると思ったのです。レオンハルト様とヴァイオレットさんが」
ルイスの問いに、リーリエは短く答える。
「レオンハルト様は、双子なのではないですか?」
リーリエの問いに、ルイスは驚いたように目を見開く。
「ヴァイオレットさんが王女だとすれば、納得いく事も多いのです」
前世のゲームの記憶や、父がグラシエール子爵家とその令嬢を監視していた事から考えても彼女はアルカナの間者でほぼ間違いない。
それでもアシュレイ公爵家がおいそれと手を出せないのだとしたら、それは王族とそれに類する者に他ならない。
12年前のフィオナのカナンでの第2王子に似た女の子の目撃情報もその可能性を示していた。
「王家の名簿にその名を見た事はないが」
「ノワール侯爵家は魔術師の名家。その家系出身の王族だからこそ意図的に排除する、という事も往々にしてあるのですよ」
テオドールのその問いに、リーリエは淡々と答える。
「双子、というのは魔術師の家系においては歓迎されない事もあるのです。本当に理不尽で馬鹿げた話ですが」
この世界では、双子はその能力を分けた不完全体、などという迷信が存在する。
こと、その傾向は魔力を絶対とする魔術師の家系では強く見られた。
実際はそんなことはなく、魔力保有量も魔術師としての資質も個人の素質によるもので、それらについては既に証明がなされている。
それでも、ヒトというのは受け入れ難い事態に直面した時、理不尽に理由をつけたがるものらしい。
こんなはずではなかった、と。
「そんな、たかが双子というだけで存在を消されるなんてことあるものなのか?」
テオドールのその問いに、ルイスは額に手をやり、舌打ちをする。
「あるんだよ。実際に、お前も黒髪やオッドアイで忌み子なんて冗談みたいな理由で王城出されてるし、お前の母方一族全部消されてんだろうが」
なんで、いつもこうなんだろうなとルイスの嘆くようなつぶやきには嫌悪感が滲む。
「俺たちは、いつも大人の事情ってやつに振り回されて、その存在が奪われる。だから、嫌なんだよ。王家なんて」
賢い彼はこの王城でずっとその理不尽を見てきたのだ。妃同士の争いで命が害されるところも、腹違いの弟が追放されるところも。
国が腐敗して傾くのを肌で感じながら、無力だった子どもは、ただ見ている事しかできなかった。