生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「だから、あなたが立つのでしょう? それに終止符を打つために」

 そんなルイスに、リーリエは笑いかける。

「私が推してるこの国の頂点に君臨する王子様は、その高い頭脳とずる賢さで、いつだって理想を追い求めてる。他者を否応なく巻き込んでね」

 ルイスを落ち着けるように、リーリエはその手に自分の両手を重ねる。
 あなたなら大丈夫、と翡翠の瞳は語る。

「私は見てみたいの、そんなあなたの活躍を」

 そして、リーリエは両手を離して、改めてルイスに差し出す。

「そんなわけで、リベンジマッチの招待状、渡してくださるかしら? やられっぱなしは性に合わないのよね。今度こそ、悪縁断ち切ってあげるから」

 リーリエの自信ありげなその声に、ルイスは冷静さを取り戻し、ごめんと小さくつぶやいた。

「俺の義妹がカッコ良すぎるわ」

「あら? 今頃気づいたの」

 茶化すようにそういうリーリエに、ルイスはレオンハルトからの正式な招待状を見せる。

「渡す前に聞かせて欲しいんだけど、結局大賢者やヴァイオレットの願いってなんなわけ? で、なんでレオンハルトに憑いてるの?」

 リーリエはさぁ? と肩を竦める。

「そこは本人に聞かないとなんとも。でもヴァイオレットさんが願って、大賢者が渡ってこれたのなら、きっとヴァイオレットさんにはルカに繋がる能力があるのでしょう。先祖返り、とかね」

「先祖返り?」

「ルカの嫁ぎ先はノワール侯爵家の大元なの。つまり、彼女はその血を受け継いでいる事になるのですよ」

 リーリエの調べで分かったのはそのあたりまで。推測の域をでないことも多い、仮説。
 だからこれから検証を始めるのだ。

「私もルゥに聞きたいのですが、レオンハルト様の出生時の事や子どもの頃の様子などで、今との違いを何か覚えていることはないのですか?」

 12年前にはおそらくヴァイオレットは大賢者と契約ずみだったのだと思う。
 だが、そうなったきっかけなどは分からないので、リーリエはルイスにそう尋ねてみたが、ルイスは首を横に振る。

「レオンが生まれた時って俺まだ1歳だよ? 流石に覚えてないな、子どもの頃も隙あらばアイリーン妃の手の者に狙われてたから、交流ないし」

 カナン王国と違って一夫多妻のアルカナ王国では、常に妃同士の諍いとその子たちによる権力争いが繰り広げられてきた。
 そうして生き残った強者が治るこの国で生まれた王子たちの仲が良いわけがない。

「リッカ妃の事とテオが生まれた日のことなら、覚えてるんだけどね」

「リッカ妃とテオドール様の、お生まれになった日?」

 リーリエの知るゲームで描かれていたテオドールは、既に辺境に追いやられた後で、 リーリエはその話を知らない。
 聞き返すリーリエに、ルイスは頷き、テオドールの方を見る。

「リッカ妃は、テオの母親。アルテミス伯爵家の出身で、誰にでも優しくて、間違ってると思ったらはっきり物申す正義感が強くて、とても綺麗な人だった」
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