生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
97.生贄姫は旦那さまと朝を迎える。
意識が浮上して、目を開ければもう既に日は昇っていて、基本的に日が昇る前から行動しているテオドールにしてはかなり寝た方だった。
虚無感に襲われた日の翌朝は、まだそれに引きずられるように重苦さが身体を占めている事が多いのに、目覚めは思いの外すっきりしていて、テオドールの心は落ち着いていた。
人の気配に隣に視線をやれば、まだ寝息を立てているリーリエの姿が目に入り、一瞬思考が停止する。
テオドールは昨夜の記憶を辿る。
あの後はリーリエにブランデー入りのホットミルクを飲まされて、手を繋いだまま一緒にベッドで取り止めもない話をして、何故か子守唄を聞かされながら髪を撫でられて、いつのまにかうとうとして、眠りに落ちた。
そう、ただ一緒に寝ただけ、のはずなのだが。
「……アウトだよなぁ、コレは」
乱れた服の隙間から見えるリーリエの白い肌には、くっきりと歯形がついていてテオドールは自分のやらかした結果にため息をつく。
テオドールは無防備に眠るリーリエの蜂蜜色の髪を優しく撫でる。撫でられる感覚が心地いいのか、眠ったままリーリエは幸せそうに笑った。
そんなリーリエを見て、テオドールは彼女を、愛おしく感じるとともにもっと触れたい欲求に駆られる。
テオドールは優しく、そっとリーリエの唇に口付けた。
「ありがとう、な。リィ」
耳元でそっと囁いて、起こさないようにベッドを出ようとしたところでテオドールは服端を掴まれる。
「……そう言うのは起きてる時に言ってください」
まだ眠たそうに小さく欠伸をしたリーリエは、
「おはようございます、テオ様」
穏やかな声でそう言った。
「起きてたのか」
「今起きたんです。あれだけ頭撫でられたら流石に目が覚めますよ」
ゆっくりベッドで伸びをして、
「テオ様、私に言うことないのですか?」
翡翠色の瞳はテオドールを見つめた。
「……ごめん、な。痛い思いさせて」
とりあえず噛み跡について謝罪するテオドールに、リーリエは違うっとむくれる。
「もう、朝のご挨拶は家族としても人としても基本ですよ。謝罪は別にいらないのです」
上体を起こしたリーリエは、じっとテオドールを見ながら拗ねた口調で続ける。
「テオ様はおはようって言ってくださらないのですか?」
ああ、そうだったとテオドールは思い出す。リーリエが欲しいのは、ただただ平穏な日常の一コマで、自分達はそれを当たり前に望むことさえ難しくて。
その毎日が、穏やかな時間が、どれほど大切なのか、テオドールも今はもう知っている。
「おはよう、リィ」
テオドールの言葉に満足そうに笑うリーリエを見て、こう言う感情を与えたり与えられたりすることを"幸せ"と呼ぶのかもしれないなとテオドールはリーリエの蜂蜜色の髪を撫でながら思った。
虚無感に襲われた日の翌朝は、まだそれに引きずられるように重苦さが身体を占めている事が多いのに、目覚めは思いの外すっきりしていて、テオドールの心は落ち着いていた。
人の気配に隣に視線をやれば、まだ寝息を立てているリーリエの姿が目に入り、一瞬思考が停止する。
テオドールは昨夜の記憶を辿る。
あの後はリーリエにブランデー入りのホットミルクを飲まされて、手を繋いだまま一緒にベッドで取り止めもない話をして、何故か子守唄を聞かされながら髪を撫でられて、いつのまにかうとうとして、眠りに落ちた。
そう、ただ一緒に寝ただけ、のはずなのだが。
「……アウトだよなぁ、コレは」
乱れた服の隙間から見えるリーリエの白い肌には、くっきりと歯形がついていてテオドールは自分のやらかした結果にため息をつく。
テオドールは無防備に眠るリーリエの蜂蜜色の髪を優しく撫でる。撫でられる感覚が心地いいのか、眠ったままリーリエは幸せそうに笑った。
そんなリーリエを見て、テオドールは彼女を、愛おしく感じるとともにもっと触れたい欲求に駆られる。
テオドールは優しく、そっとリーリエの唇に口付けた。
「ありがとう、な。リィ」
耳元でそっと囁いて、起こさないようにベッドを出ようとしたところでテオドールは服端を掴まれる。
「……そう言うのは起きてる時に言ってください」
まだ眠たそうに小さく欠伸をしたリーリエは、
「おはようございます、テオ様」
穏やかな声でそう言った。
「起きてたのか」
「今起きたんです。あれだけ頭撫でられたら流石に目が覚めますよ」
ゆっくりベッドで伸びをして、
「テオ様、私に言うことないのですか?」
翡翠色の瞳はテオドールを見つめた。
「……ごめん、な。痛い思いさせて」
とりあえず噛み跡について謝罪するテオドールに、リーリエは違うっとむくれる。
「もう、朝のご挨拶は家族としても人としても基本ですよ。謝罪は別にいらないのです」
上体を起こしたリーリエは、じっとテオドールを見ながら拗ねた口調で続ける。
「テオ様はおはようって言ってくださらないのですか?」
ああ、そうだったとテオドールは思い出す。リーリエが欲しいのは、ただただ平穏な日常の一コマで、自分達はそれを当たり前に望むことさえ難しくて。
その毎日が、穏やかな時間が、どれほど大切なのか、テオドールも今はもう知っている。
「おはよう、リィ」
テオドールの言葉に満足そうに笑うリーリエを見て、こう言う感情を与えたり与えられたりすることを"幸せ"と呼ぶのかもしれないなとテオドールはリーリエの蜂蜜色の髪を撫でながら思った。