生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
100.生贄姫は想いを交わす。
高台にある展望台に人はおらず、とても静かだった。夕焼けに闇色が混ざり始め、風が冷たくなってきた。もうすぐ、夜がやってくる。
リーリエは先程購入した指輪を取り出す。
「結局リィが2つとも買ったな」
「……いいんです。プレゼントだから」
さっきのやり取りとテオドールの言動を思い出し、照れてしまいそうになるのを抑えてリーリエはそう言う。
「プレゼント?」
「誕生日、と今日のお礼です。ずっと追われないように気配遮断の魔法かけていてくれたでしょ?」
「……気づいてたのか」
魔法の発動自体感知できないレベルでかけていたはずなのに気づかれていたことにテオドールは素直に驚く。
「追手が来なさ過ぎです。髪の色と認識阻害だけで、こんなに見つからないわけないじゃないですか」
と鈴が鳴るような声でリーリエは優しくそう言った。
「祝われるの、嫌かなーって、思ったのですけれど、やっぱり何か渡したくなっちゃって。ご迷惑でなければ、貰ってください」
驚いたように見返してくるテオドールにリーリエは笑う。
リーリエとしては推しの生誕祭など本来なら盛大にやりたいところである。でも、本人がそれを望まないのであれば、それは最適解ではないのだろう。
「じゃあ、貰うことにする」
テオドールの静かな了承の言葉にリーリエは嬉しそうに頷いた。
「ハイ、と言うわけで何の変哲もない露店の指輪なのですけれど、今日はテオ様のお誕生日ですから、今から私が特別にオーダーメイドで魔術式を入れて差し上げます。私、これでも一級魔術師ですから、かなり強い防御の魔道具に大変身ですよ」
リーリエはテオドールが選んだ指輪を手に取る。
「何にします? 防毒? ダメージブロック? 面積あるので限りは有りますけど、なんでも入れますよ!」
得意げにそう話すリーリエを見ながら、こんなに小さなものにまで魔術式を組めるのかと驚くテオドール。
「なんでもいいのか?」
しばし熟考してそう尋ねた。
「まぁ、確立されている魔術式があるものなら大抵のものはいけるかと。流石に遅延とか特殊な魔力がいるものは無理ですが」
「リーリエ」
「はい、なんでしょう?」
突然名前を呼ばれて返事をするリーリエにテオドールは小さく笑う。
「名前、がいい。リーリエの」
「……私の名前を入れても、何の効果もございませんが?」
それでは魔道具にならないじゃないかと眉根を寄せるリーリエを見て、テオドールは彼女の髪を撫でる。
「これ以上にないお守りだろ。リーリエ・アシュレイ。俺がこの世で1番敬意を称する魔術師の名前。きっと、何があっても、それを見れば俺は踏み留まれるから」
テオドールは彼女の翡翠色の瞳を真っ直ぐ見る。
「先の約束ができない代わりに"目標"を刻んで貰ってもいいだろうか?」
リーリエが、隣に居たいと思ってくれる自分に、そして彼女を護れるだけの力を持てる自分になるという目標。
目に入れるたびに、戒められるようにとテオドールは彼女の名前を望む。
リーリエは先程購入した指輪を取り出す。
「結局リィが2つとも買ったな」
「……いいんです。プレゼントだから」
さっきのやり取りとテオドールの言動を思い出し、照れてしまいそうになるのを抑えてリーリエはそう言う。
「プレゼント?」
「誕生日、と今日のお礼です。ずっと追われないように気配遮断の魔法かけていてくれたでしょ?」
「……気づいてたのか」
魔法の発動自体感知できないレベルでかけていたはずなのに気づかれていたことにテオドールは素直に驚く。
「追手が来なさ過ぎです。髪の色と認識阻害だけで、こんなに見つからないわけないじゃないですか」
と鈴が鳴るような声でリーリエは優しくそう言った。
「祝われるの、嫌かなーって、思ったのですけれど、やっぱり何か渡したくなっちゃって。ご迷惑でなければ、貰ってください」
驚いたように見返してくるテオドールにリーリエは笑う。
リーリエとしては推しの生誕祭など本来なら盛大にやりたいところである。でも、本人がそれを望まないのであれば、それは最適解ではないのだろう。
「じゃあ、貰うことにする」
テオドールの静かな了承の言葉にリーリエは嬉しそうに頷いた。
「ハイ、と言うわけで何の変哲もない露店の指輪なのですけれど、今日はテオ様のお誕生日ですから、今から私が特別にオーダーメイドで魔術式を入れて差し上げます。私、これでも一級魔術師ですから、かなり強い防御の魔道具に大変身ですよ」
リーリエはテオドールが選んだ指輪を手に取る。
「何にします? 防毒? ダメージブロック? 面積あるので限りは有りますけど、なんでも入れますよ!」
得意げにそう話すリーリエを見ながら、こんなに小さなものにまで魔術式を組めるのかと驚くテオドール。
「なんでもいいのか?」
しばし熟考してそう尋ねた。
「まぁ、確立されている魔術式があるものなら大抵のものはいけるかと。流石に遅延とか特殊な魔力がいるものは無理ですが」
「リーリエ」
「はい、なんでしょう?」
突然名前を呼ばれて返事をするリーリエにテオドールは小さく笑う。
「名前、がいい。リーリエの」
「……私の名前を入れても、何の効果もございませんが?」
それでは魔道具にならないじゃないかと眉根を寄せるリーリエを見て、テオドールは彼女の髪を撫でる。
「これ以上にないお守りだろ。リーリエ・アシュレイ。俺がこの世で1番敬意を称する魔術師の名前。きっと、何があっても、それを見れば俺は踏み留まれるから」
テオドールは彼女の翡翠色の瞳を真っ直ぐ見る。
「先の約束ができない代わりに"目標"を刻んで貰ってもいいだろうか?」
リーリエが、隣に居たいと思ってくれる自分に、そして彼女を護れるだけの力を持てる自分になるという目標。
目に入れるたびに、戒められるようにとテオドールは彼女の名前を望む。