生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「……テオ様の誕生日、なのに……私が貰ってどうするんですか」

 テオドールの言葉にプロポーズみたいだなんてトキメキが止まらないリーリエは、最近糖度が高すぎるテオドールに白旗を上げる。

「拘束プレイは、私がする予定だったのですが、いいですよ。名前、入れますよ」

「だから拘束プレイってなんだよ」

 テオドールの問いに答えず、微笑んだリーリエは指先に魔力を集中させる。そして文字を描いて指輪に定着させた。

 一つには、リーリエ・アシュレイ。
 もう一つには、テオドール・アルテミス・アルカナと、テオドールのフルネームを入れる。

「青に金なんて、テオ様みたいだなーって、この指輪を見て思ったので」

 出来上がった指輪を両方テオドールの手に置く。

「私、公務の時でも指輪は絶対しないんです。魔術式を編むのにも魔法を使うにも制御値0.01は、かなりの繊細さが求められるので、指には常に気をつかっていて、狂わないようにしています。つまり、この指は魔術師としての私の生命線です」

 言われて見れば今まで一度もリーリエが指輪をはめているところを見たことがないことにテオドールは気づく。
 持っている指輪も首から下げている加護石入りの遅延魔法が入った指輪だけだ。

「私物、は多分コレからもあまり増えないと思います。出て行く準備というよりも不自由していないのです。あまり、モノに対して執着もありませんし」

 以前、テオドールから、

『書籍以外の私物が増えない部屋を見てると、いつでも出ていける準備をされているようで、いつまで"保留"でいてくれる気なのか不安になる』

 と言われてからずっと、考えていた。
 どうすれば、先の約束ができない関係で不安を軽減できるのか、と。

「代わりといってはなんですが、不安にならないように、捕まえていてもいいですよ? 流石に機動力が落ちると困るので利き手の指はあげられませんが」

 そう言ってリーリエは左手をテオドールに差出す。

「好きな指、一本テオ様にあげます。指輪を外さない限りは、私はあなたに捕まっている事にします。まぁ、指輪なんて外そうと思えばいつでも外せるし、約束とも言えないのですけれど、それでも少なくとも目に映ったその瞬間は私はあなたを想っているのだって、分かるでしょう?」

 魔術師としての生命線をテオドールに渡すと言うリーリエを見て、差し出された指をなぞる。
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