生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
 誕生日なんて、特に何か思う日ではなかったけれど、リーリエがそう言ってくれるなら特別な日のような気がして、彼女がここにいてくれることが奇跡なんじゃないかとテオドールは柄にもなくそう思った。

「リィ、誕生日ならわがままを聞いてもらえるのか?」

「私にできることなら」

 珍しいですね、とリーリエが首を傾げて応える。

「キスしたい」

 予告とほぼ同時に、テオドールがリーリエにキスをする。
 何度目か口角を変えて口付けられたところで、

「邪魔だな」

 とテオドールがメガネを外す。そんな動作すら色っぽく、リーリエは見惚れる。

「リィ、愛してる」

 大好きな青と金の目が近くにあって、そう言われることにリーリエは微笑む。

「私も、愛しています。やっぱり、テオ様はこの目が素敵です」

「リィの髪、いつもの色がいいな」

「私も、テオ様の髪は黒がいいです」

 そう言って、リーリエはそっと手で触れ魔法を解いて髪色を戻す。
 しばらく見つめあったあと、どちらからともなくゆっくり重ねるだけの口付けをし、それは少しずつ深くなっていった。

「リィ、俺に応えて欲しい」

 一度唇を離したテオドールは、リーリエにそう囁く。何度も何度も唇を重ねて舌を絡めあう。

「……ん……はぁ……ん」

 もうどちらの息遣いなのか分からないほどに溶けていくその感触が心地よく、甘くめまいがするような感覚にリーリエは何も考えられなくなる。
 リーリエから完全に力が抜けてしまったところで、ようやくテオドールが唇を離す。

「俺の妻は本当に可愛いな」

 ふっとテオドールは満足気に笑って、ぐったり体を預けてくるリーリエの頭を優しく撫でた。

「……ここ、外ですよ」

「人の気配ないから大丈夫。リィのこんな顔、誰にも見せられないしな」

 あんまり揶揄うと口も聞いてくれなくなるので、テオドールはリーリエを宥めるように手を繋いだ。

「ココ、貰っていいか?」

 とテオドールが左手の薬指に口付ける。リーリエが頷くのを確認し、指輪をはめて魔法でサイズを合わせた。
 テオドールは自分の指の同じ場所にはめ、同様に魔法でサイズを合わせる。
 既婚者が左手の薬指に指輪をはめるなんて習慣がないこの世界で、前世の既婚者の証をはめる事になるなんてとリーリエは少し驚く。

「何故ココに?」

「一番邪魔にならなさそうで目につくから」

 テオドールが指を選んだ理由に苦笑しながら、

「この指は、愛情深めたい人同士でつけるそうですよ」

 そう言って指輪に口付けた。
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