生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「私は、前世からテオドール様の事を知っている。この世界の出来事を知識として知っている。そして、ヘレナート様が渡ったことのない異世界の知識。それこそが今回ヘレナート様攻略のカギなのだと私は思います」

 全てを聞き終えて、テオドールはリーリエの顔をじっと見る。
 リーリエの言葉は難解で奇天烈で、理解を超える事も多い。
 だけど、彼女はいつでもテオドールと誠実に向き合おうとしてきた。
 そして、彼女の翡翠色の瞳にはテオドールへの信頼が表されている。

「そうか」

 テオドールは静かにそう言った。

「それで、リィは俺に何をして欲しいんだ?」

 そして、当たり前のようにそう聞いた。

「こんな話をしておいて、なんですが信じるのですか?」

 リーリエはあっさりと受け入れられたことに拍子抜けしたように驚く。

「リィが、そういうのならそうなのだろう。リィの突拍子のない話は今に始まったことではないし、納得できる部分もあるし」

 テオドールはリーリエに手を伸ばし、その頬に触れる。

「私、は……本来、テオドール様が出会うはずのない人間で、あなたの運命というものを変えてしまったかもしれないのですよ」

 そして今も絶賛厄介事に巻き込み中だ。 まぁ巻き込まれてくれなければ、ヘレナート攻略など絶対にできないのだが。

「仮にそうだとして、その仮定には意味がない」

 テオドールはふっと表情を緩める。その綺麗な微笑にリーリエは見惚れる。

「もう、俺たちは出会ってしまったし、俺は今の現状を後悔なんてしていない。全部ひっくるめて、リィなんだから、抱えきれない分は俺に寄越せばいいだろう。一緒に抱えてやるから」

 低く穏やかな大好きな声がリーリエの耳に響く。

「あーーっ、もうっ。神かな!? 私の最推しのカッコいいが過ぎるんだが。惚れる。もう、コレは、どうやっても惚れるって。推せる要素しか見当たらないっ」

 口元を手で覆って萌転がりそうになりながら、リーリエはそう叫ぶ。
 リーリエの最愛の推しはいつだってかっこいい。

「リィはいつでも通常運転だな」

 彼女がいつも通りのリーリエだというのなら、これから何かが起きたとしても大丈夫なのだろう。
 テオドールは前世なんてとんでもない話しを語った最愛の妻を見つめながら、確信的にそう思った。
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