生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「私、今まで破滅ルート回避のためのフラグをひとりでなんとかしようと奮闘していたのですが、そもそもそれが間違いだったのです」

 元々リーリエというキャラクターは、戦闘要員でもなく、ストーリーに出ては来るがメインキャラクターとの絡みはなく、スペックだって高くなかった。
 そして、このゲームは戦闘要員のキャラでデッキを組んで、敵を攻略するのだ。

「これから行うのは、ボス戦ですよ。なら、私一人じゃダメなんです」

 そういって、リーリエは前世のゲームで散々連れ回したテオドールを見る。

「ボス戦必須な高火力アタッカー、高HP、超スキル持ちで全プレーヤー喉から手が出るくらい欲しい上に、人気ランキング男性部門上位常連組み。つまり、テオドール様が必要なのですよ。回復要員いないのが、痛いですけど、そこはまぁ、向こうも同じなので」

 前世の攻略デッキならテオドールと回復要員の大聖女、妹のシャロンは連れて行っていただろうが今回はそれはできない。なので、怪我と魔力消費には要注意だ。

「最適解はもう出ていました」

「最適解?」

「万が一主人公が来た時には旦那さまが拐かされないように、こっそりアレキサンドロスをお渡して穏便にお引き取り願うのが一番平和的解決かもしれませんね、といったでしょ?」

 リーリエはテオドールに地雷を踏まれた時に話した事がまさに最適解だったと笑う。

「まぁ、要するにラストは主人公が異世界に転移していけばいいわけです。そして、私は超接近戦向き。ヘレナート様にご所望のアレキサンドロスのカケラをお渡しして転移魔法をかけられる状態まで持っていけるのが、ベストです」

「転移魔法、なんて聞いたことないが?」

「ヘレナート様自身がお持ちのはずです。それを基盤に逆転写で魔術式を描きます。上手くいくかは分かりませんが」

 そしてその勝率を上げるために必要な人物がいる。
 リーリエはその人物の顔を思い出し、嫌そうに顔を顰める。

「アレキサンドロス、はどうするんだ?」

「もうすぐ、スケコマシ……フィリクス殿下が持ってきますよ。あの人、他力本願だから。あの人ごと連れて来てください。たまには働いてもらいます」

 不確定要素まで作戦に組み込むのは不安でしかないのだが、ヴァイオレットがヒロインで彼の最愛であるならば、おそらくこの読みは間違っていないはずだ。

「なるほど、じゃ俺のやる事は一つだな」

 リーリエは頷く。

「つまり戦闘不能になるまでヘレナートを倒せばいいんだろ?」

「ええ、フルボッコでお願いします。チャンス1回しかないので」

 かくして物騒な夫婦のヘレナート攻略戦の幕が切って落とされたのだった。
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