生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
『結構な量のアルコールが感じられる。かなり血液中に溶け込んでるわね』
リーリエは意識を集中しながら、ステラリアの体内の水質状態を再度確認する。
「ステラリア様のお体は今脱水状態。私が体液ごとアルコールを抜いて意識の回復を図ります」
「アルコールを抜く?」
「私、こう見えても加護持ちのマスタークラスですので水魔法は得意なのですよ」
「水魔法、だと?」
リーリエはにこりと笑ってうなずくと懐から魔法陣の書かれた紙を取り出し、ステラリアの首や手首、足首など見えている個所に貼り付けていく。
「回復魔法スキルだけがすべての最適解ではないのですよ、旦那さま」
この世界で原状回復ができるのは大聖女の”蘇生回復”スキルくらいで、通常の回復魔法は基本的に体力回復や魔力回復にとどまる。宮廷魔術医レベルなら上位スキルの状態異常回復も使えるが、これらは通常”毒”や”麻痺”にしか効かない。
水と風魔法を主力とするリーリエはそもそも回復魔法の類のスキルは持ってはいないが、人体の60%は水分と言える。
リーリエの目にステラリアの体内で体液に溶け込むアルコールや彼女を害するものが浮かび上がる。
『体のほとんどは”水”。血液の流れを読んで、アルコールだけ抜き取る!』
リーリエはステラリアの体の中心付近に手を置き、意識を集中させる。
ステラリアの体を魔法陣から抜け出した文字がぐるりと駆け巡り、リーリエがステラリアの身体から取り出した深紅の気体は空中に一度離散し、すべて液体となって瓶の中に納まった。
「リオール侯爵夫人、ステラリア様はとりあえず大丈夫ですよ」
リーリエは淑女の微笑みを浮かべ、座り込んでいたリオール侯爵夫人に声をかけた。
「ステラっ!!」
呼吸は整い、血の気も戻ったステラリアがゆっくりと目を開ける。
「ステラ!! ああ、ステラっ!!」
「お母……様?」
ステラリアはまだぼんやりとした様子だが、回復魔法がかけられているので、すぐに自力で歩けるようになるだろう。
ほっとして息を吐き出したリーリエは、瓶の中身を侯爵夫人に差し出す。
「こちらはステラリア様がお召しになったリオール産のワインです。未成熟の体で空腹時に多量のお酒は毒になるということをお忘れなきよう」
コトリと音を立てて瓶を置く。
まさか自分の領地の名産品で娘が倒れたなどと思っていなかったのだろう。
リオール侯爵夫人は口を開こうとしたが、そこから言葉が漏れることはなかった。
「ああ、侯爵夫人、こちら先程旦那さまが作って下さった経口補水液です。脱水症状の改善に良ければゆっくり飲ませてあげてくださいませ」
リーリエは最後まで礼一つ述べない彼らに優雅に笑ってそれを渡し、もう用が済んだとばかりに立ち上がる。
「旦那さま、私少々疲れましたので、屋敷まで送ってくださいますか?」
もうこの場にいる必要もないだろうと言外にそう告げるリーリエの意図をくみ取ったテオドールは彼女の手を取り軽くうなずく。
「では皆様、ごきげんよう」
文句のつけようがないほど完璧な所作で挨拶をして見せたリーリエは、淑女の笑みを受けたまま退出する。
死神王子に物怖じせず、宮廷魔術医を差し置いて颯爽とステラリアを救って立ち去る彼女を見て、会場に居合わせた人々は口々にこうつぶやく。
『聖女が現れた』と。
リーリエは意識を集中しながら、ステラリアの体内の水質状態を再度確認する。
「ステラリア様のお体は今脱水状態。私が体液ごとアルコールを抜いて意識の回復を図ります」
「アルコールを抜く?」
「私、こう見えても加護持ちのマスタークラスですので水魔法は得意なのですよ」
「水魔法、だと?」
リーリエはにこりと笑ってうなずくと懐から魔法陣の書かれた紙を取り出し、ステラリアの首や手首、足首など見えている個所に貼り付けていく。
「回復魔法スキルだけがすべての最適解ではないのですよ、旦那さま」
この世界で原状回復ができるのは大聖女の”蘇生回復”スキルくらいで、通常の回復魔法は基本的に体力回復や魔力回復にとどまる。宮廷魔術医レベルなら上位スキルの状態異常回復も使えるが、これらは通常”毒”や”麻痺”にしか効かない。
水と風魔法を主力とするリーリエはそもそも回復魔法の類のスキルは持ってはいないが、人体の60%は水分と言える。
リーリエの目にステラリアの体内で体液に溶け込むアルコールや彼女を害するものが浮かび上がる。
『体のほとんどは”水”。血液の流れを読んで、アルコールだけ抜き取る!』
リーリエはステラリアの体の中心付近に手を置き、意識を集中させる。
ステラリアの体を魔法陣から抜け出した文字がぐるりと駆け巡り、リーリエがステラリアの身体から取り出した深紅の気体は空中に一度離散し、すべて液体となって瓶の中に納まった。
「リオール侯爵夫人、ステラリア様はとりあえず大丈夫ですよ」
リーリエは淑女の微笑みを浮かべ、座り込んでいたリオール侯爵夫人に声をかけた。
「ステラっ!!」
呼吸は整い、血の気も戻ったステラリアがゆっくりと目を開ける。
「ステラ!! ああ、ステラっ!!」
「お母……様?」
ステラリアはまだぼんやりとした様子だが、回復魔法がかけられているので、すぐに自力で歩けるようになるだろう。
ほっとして息を吐き出したリーリエは、瓶の中身を侯爵夫人に差し出す。
「こちらはステラリア様がお召しになったリオール産のワインです。未成熟の体で空腹時に多量のお酒は毒になるということをお忘れなきよう」
コトリと音を立てて瓶を置く。
まさか自分の領地の名産品で娘が倒れたなどと思っていなかったのだろう。
リオール侯爵夫人は口を開こうとしたが、そこから言葉が漏れることはなかった。
「ああ、侯爵夫人、こちら先程旦那さまが作って下さった経口補水液です。脱水症状の改善に良ければゆっくり飲ませてあげてくださいませ」
リーリエは最後まで礼一つ述べない彼らに優雅に笑ってそれを渡し、もう用が済んだとばかりに立ち上がる。
「旦那さま、私少々疲れましたので、屋敷まで送ってくださいますか?」
もうこの場にいる必要もないだろうと言外にそう告げるリーリエの意図をくみ取ったテオドールは彼女の手を取り軽くうなずく。
「では皆様、ごきげんよう」
文句のつけようがないほど完璧な所作で挨拶をして見せたリーリエは、淑女の笑みを受けたまま退出する。
死神王子に物怖じせず、宮廷魔術医を差し置いて颯爽とステラリアを救って立ち去る彼女を見て、会場に居合わせた人々は口々にこうつぶやく。
『聖女が現れた』と。