生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

108.生贄姫は対価を払う。

 リーリエの手放した意識が戻ったのは、3日後の事で、1番初めに視界に入ったのがテオドールじゃなくて少し残念な気持ちがした。

「あからさまにがっかりされると俺も傷つくんだけど。ていうか、体張りすぎでしょ」

 呆れたような口調でルイスがそう話しかける。目の下にクマができるほど連日激務に追われているのだろうが、表情はむしろイキイキしていて、頼もしい限りだ。

「まぁ、テオはもう少ししたら来るよ。必ず1回は顔出してるし。丸投げされたから、目を覚ますまでに粗方方向性決めて片しとかないとリリが大人しく寝てなくれなくて困るって、お宅の旦那さんぼやいてましたけど?」

「うちの旦那さま有能な上に優し過ぎない? ホント推せる」

 ヘレナートと戦ってるときのテオドールもカッコ良かったし、前世でできなかったスチル回収の代わりに心に焼き付けとこうとリーリエは内心で強く思った。

 リーリエは病院のベッドで、ヴィオレッタの証言と魔術省が秘匿していた不正、国家転覆を狙う証拠の数々を元にノワール侯爵家並びにそこに加担した人達を次々と断罪していることなど、その後の話を聞いた。

「ヴァイオレットさん……ヴィオレッタ様とレオンハルト様の処遇はどうするおつもりです?」

「ヴィオレッタはうち預かりで正式に王族の籍に入れるよ。優秀だし、捨て置くには惜しい人材だし。レオンは継承権剥奪して籍はそのままで保護するつもり。アイリーン妃は、まぁよくて幽閉かな」

 2人の処遇を聞いてリーリエは安堵する。ルイスに任せておけば、悪いようにはしないだろう。

「椅子取りゲームていうか、もはやババ抜きみたいね。お兄ちゃんがんばって」

「あーホントそれな。お兄ちゃん頑張るわ」

 誰も座りたがらない緋色の椅子に腰掛けて、ルイスはこれからも奮闘していくのだろう。歴史作る物語なんてものは、大体がその時の覇者がいいように描くものだ。
 表に出せない事案も多いけれど、それはきっと、ルイスとテオドールをはじめとした家臣達が抱えて隠し、この国でこれから優しい物語を描くのだろう。

「なんか他人事だけど、これからリリにもガツガツ働いてもらうよ? 魔術省ほぼ壊滅状態だからこれから引っ張っていける人間もいるし」

 ルイスに頼りにしてる、と言われたところでリーリエはドアの方に視線を向ける。それと同時にドアが静かに開く。

「おはようございます、旦那さま」

 視線の合ったテオドールにリーリエはそう言って笑いかける。

「もう、夕方だけどな」

 ごく当たり前に微笑を浮かべたテオドールはおそようとリーリエに返事を返した。

「そのお花、どうしたのです?」

「リーリエに持ってけって持たされた。加工してある花だと」

 色鮮やかなプリザーブドフラワーの花束をリーリエに渡す。

「ふふ、旦那さま、なんだかお花とっても似合いますね。王子さまみたいですよ?」

「なんだそれは」

 楽しそうに笑い合う2人を見ながら、継承権持ってる本物の王子だけどというツッコミは野暮かとルイスは言葉にしなかった。
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