生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「容姿、権力、名声に加えて、婚約者なしの未婚なら、モテて当然でしょう。公爵家としては新しく、領地管理の面から考えてもそろそろ公爵夫人も必要でしょうし。今後の跡取りのことも考えて、側室でも愛妾でも立候補したい、と考える女性は多いのでは? 政略結婚で半年足らずの結婚生活しか送っていないバツイチの経歴なんて誰も気にしませんよ」
「リリ元妻なのに、すごく他人事だな」
「事実ですから」
そう、あの頃の死神と恐れられ遠巻きに見られていたテオドールとはもう違うのだとリーリエは自分に言い聞かせる。
人目を引く黒髪も青と金のオッドアイも希少価値の高いモノだと保証された上、テオドールは元々整った顔立ちをしている。
その上細身だが鍛えられた体躯は一分の隙もなく、何もしなくてもかっこいいのに、細やかな気配りと特に女性に対して優しく接する姿勢、時折見られる微笑にやられた淑女達の黄色悲鳴を独り占めしている彼は今社交界では1番の有望株だ。
「王弟殿下の努力の結果です。あの頃のあの方とはもう取り巻く環境が違うのです。いいご縁や運命の相手に巡り合うかもしれないのに、あんな選択をさせた私が、やっとあの方が手にした些細な幸せを踏み躙っちゃダメでしょ」
離れていた月日の中でリーリエの気持ちに変化があった。
彼の隣を誰にも渡したくないと思った独占欲。それは今でも変わらずリーリエの中にある。
でも、テオドールがそうとは限らない。
人の心が移ろうものだと、リーリエは知っている。
リーリエしか居なかったあの頃とはもう違う。
離れていた月日の中で、彼を取り巻く環境が変化し、沢山の人に囲まれていれば、必要となる相手も変わってくる事が理解できないほどリーリエは子どもではない。
「……なんとしても、隣を譲りたくないと思っていた時期もあったんですけどね」
初めの頃は正直に言えば期待もしていた。
でも、国のナンバー2に上り詰めてもテオドールからは何の連絡もなかった。
テオドールの活躍は全て人伝に入ってくるもので、本人からは手紙の一通すら、送られて来ない。まぁ、バースデーカードすら送っていない自分が言えたことではないのだが。
そうして、リーリエ自身が20歳を迎えた日、悪夢を越えて初めて10代を終えた喜びと共にリーリエは期待することをやめた。
『待っていてくれないか?』
今ではその言葉に素直に頷かなくてよかったと思っている自分がいる。
勝負だとしていれば、選択肢は自分にもあるのだから。
テオドールには、自分の足で戻ると言ったけれど、もし、テオドールにとって自分が不要ならもう戻らない。
あの時にはもう、そう決めていた。
「リリ元妻なのに、すごく他人事だな」
「事実ですから」
そう、あの頃の死神と恐れられ遠巻きに見られていたテオドールとはもう違うのだとリーリエは自分に言い聞かせる。
人目を引く黒髪も青と金のオッドアイも希少価値の高いモノだと保証された上、テオドールは元々整った顔立ちをしている。
その上細身だが鍛えられた体躯は一分の隙もなく、何もしなくてもかっこいいのに、細やかな気配りと特に女性に対して優しく接する姿勢、時折見られる微笑にやられた淑女達の黄色悲鳴を独り占めしている彼は今社交界では1番の有望株だ。
「王弟殿下の努力の結果です。あの頃のあの方とはもう取り巻く環境が違うのです。いいご縁や運命の相手に巡り合うかもしれないのに、あんな選択をさせた私が、やっとあの方が手にした些細な幸せを踏み躙っちゃダメでしょ」
離れていた月日の中でリーリエの気持ちに変化があった。
彼の隣を誰にも渡したくないと思った独占欲。それは今でも変わらずリーリエの中にある。
でも、テオドールがそうとは限らない。
人の心が移ろうものだと、リーリエは知っている。
リーリエしか居なかったあの頃とはもう違う。
離れていた月日の中で、彼を取り巻く環境が変化し、沢山の人に囲まれていれば、必要となる相手も変わってくる事が理解できないほどリーリエは子どもではない。
「……なんとしても、隣を譲りたくないと思っていた時期もあったんですけどね」
初めの頃は正直に言えば期待もしていた。
でも、国のナンバー2に上り詰めてもテオドールからは何の連絡もなかった。
テオドールの活躍は全て人伝に入ってくるもので、本人からは手紙の一通すら、送られて来ない。まぁ、バースデーカードすら送っていない自分が言えたことではないのだが。
そうして、リーリエ自身が20歳を迎えた日、悪夢を越えて初めて10代を終えた喜びと共にリーリエは期待することをやめた。
『待っていてくれないか?』
今ではその言葉に素直に頷かなくてよかったと思っている自分がいる。
勝負だとしていれば、選択肢は自分にもあるのだから。
テオドールには、自分の足で戻ると言ったけれど、もし、テオドールにとって自分が不要ならもう戻らない。
あの時にはもう、そう決めていた。