生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「私はね、平穏な毎日が欲しいのです。主人公でもヒロインでもなくていい。ただ、ファンとして、推しの活躍を見たいだけ」
テオドールに恋をする前だったら、きっとそれは紛れもなくリーリエの本音だった。
だけど、今は。
「なので、会いません。離れてこっそり活躍を拝見するくらいがちょうどいいのです」
テオドールの心変わりが怖くて、すっかり臆病になってしまった自分への言い訳だ。
そんな自分を隠すように、リーリエは完璧な淑女を演じる。
「リリ、公爵家出てどうするの?」
「決まっています。次は聖地巡礼ですね!」
「リリ、そんなに信心深かったっけ?」
「ふふ、この場合は世界を見て回る、と言う意味ですね。ワクワクしますね。行ってみたいところがいっぱいありますし」
「リリ、もう結婚する気ないの?」
「なんのために爵位とったと思っているのです? 政略結婚なんて、もう2度と御免です」
リーリエは清々しいほど綺麗な顔で笑って、
「さて、そろそろアンジェリカお姉様と王子さまにお会いしてお暇します。叙爵式の準備がありますので、早く戻りませんと」
そう言って礼をし、ルイスに別れを告げた。
「だってよ、テオ。お前信用ないな」
リーリエが居なくなってから、ルイスはつぶやくようにそう言って、喉の奥で笑いを噛み砕く。
「まぁ、誰がどう見ても文句つけられないくらい権力も名声も手にしてから2年近く音沙汰なければ、見限られるよな」
「うるさい。そういう条件課されてたんだから仕方ないだろうが」
完全に気配を絶ってルイスの護衛に当たっていたテオドールが、物陰から出てきた。
「どうする? お前、今完全に過去の男扱いだぞ。リリ自由人だから、爵位取って国出たらもう一生掴まらないかもな」
テオはテオでこの3年、ガンガン功績上げまくるリリに対抗して必死だったのになとルイスは、すれ違う2人を見て心底おかしそうにテオドールを揶揄う。
「リリ、本当綺麗になったよな。元々美人なのに、この3年で大人びて色香に磨きがかかってるし」
本人は自分の事を傷物令嬢だなんていって無自覚だが、リーリエを見て熱のこもった視線を送らない男はいないくらい、恋を知った彼女は綺麗になったとルイスは思う。
「整った容姿に申し分ない家柄。加えて爵位を自力で取れるだけの才が有れば、フィールドワークと外交で諸外国飛び回るリリに、色んな国の上流階級の権力者がこぞって求婚したがるのも頷ける。それをテオはこっそり裏で手を回して縁談潰したり脅したり色々してたのになぁ、テオの努力何一つ伝わってないじゃん」
まぁ表だってやってないから無理ないけどと、ルイスは笑いを噛み締める。
「せめて、寄ってくる女の子を冷たくあしらえばよかったのに、表情崩したりするからそうなる」
「リーリエの話題出た時だけだろうが。それくらい許せよ」
「普段笑わない人間が自分にだけ笑ったって思っちゃったら脈有りって勘違いするだろ。被弾した人間含め」
うちの国の未婚率上がったらどうしてくれるの? と揶揄うように尋ねるルイスにテオドールは知るかと冷たく返す。
「まぁ、そんなわけで、テオもそろそろ身を固めろよ。元嫁に公爵夫人必要って勧められてたじゃん」
「リーリエ以外と結婚する気ねぇってずっと言ってんだろうが」
そう言い切るテオドールにルイスは開封済みの封筒を渡す。
「本当は俺もリリの晴れ舞台見たいんだけどね、アンジェリカが俺だけ行くのずるいって拗ねるから、お前に譲るわ。名代、行ってきて」
それはリーリエの叙爵式の招待状だった。
「いい加減、根回し済んだろ? 口説き落とすまで帰ってくんなよ」
勅命って事で、とテオドールにそう命じたルイスは兄の顔をしていた。
テオドールに恋をする前だったら、きっとそれは紛れもなくリーリエの本音だった。
だけど、今は。
「なので、会いません。離れてこっそり活躍を拝見するくらいがちょうどいいのです」
テオドールの心変わりが怖くて、すっかり臆病になってしまった自分への言い訳だ。
そんな自分を隠すように、リーリエは完璧な淑女を演じる。
「リリ、公爵家出てどうするの?」
「決まっています。次は聖地巡礼ですね!」
「リリ、そんなに信心深かったっけ?」
「ふふ、この場合は世界を見て回る、と言う意味ですね。ワクワクしますね。行ってみたいところがいっぱいありますし」
「リリ、もう結婚する気ないの?」
「なんのために爵位とったと思っているのです? 政略結婚なんて、もう2度と御免です」
リーリエは清々しいほど綺麗な顔で笑って、
「さて、そろそろアンジェリカお姉様と王子さまにお会いしてお暇します。叙爵式の準備がありますので、早く戻りませんと」
そう言って礼をし、ルイスに別れを告げた。
「だってよ、テオ。お前信用ないな」
リーリエが居なくなってから、ルイスはつぶやくようにそう言って、喉の奥で笑いを噛み砕く。
「まぁ、誰がどう見ても文句つけられないくらい権力も名声も手にしてから2年近く音沙汰なければ、見限られるよな」
「うるさい。そういう条件課されてたんだから仕方ないだろうが」
完全に気配を絶ってルイスの護衛に当たっていたテオドールが、物陰から出てきた。
「どうする? お前、今完全に過去の男扱いだぞ。リリ自由人だから、爵位取って国出たらもう一生掴まらないかもな」
テオはテオでこの3年、ガンガン功績上げまくるリリに対抗して必死だったのになとルイスは、すれ違う2人を見て心底おかしそうにテオドールを揶揄う。
「リリ、本当綺麗になったよな。元々美人なのに、この3年で大人びて色香に磨きがかかってるし」
本人は自分の事を傷物令嬢だなんていって無自覚だが、リーリエを見て熱のこもった視線を送らない男はいないくらい、恋を知った彼女は綺麗になったとルイスは思う。
「整った容姿に申し分ない家柄。加えて爵位を自力で取れるだけの才が有れば、フィールドワークと外交で諸外国飛び回るリリに、色んな国の上流階級の権力者がこぞって求婚したがるのも頷ける。それをテオはこっそり裏で手を回して縁談潰したり脅したり色々してたのになぁ、テオの努力何一つ伝わってないじゃん」
まぁ表だってやってないから無理ないけどと、ルイスは笑いを噛み締める。
「せめて、寄ってくる女の子を冷たくあしらえばよかったのに、表情崩したりするからそうなる」
「リーリエの話題出た時だけだろうが。それくらい許せよ」
「普段笑わない人間が自分にだけ笑ったって思っちゃったら脈有りって勘違いするだろ。被弾した人間含め」
うちの国の未婚率上がったらどうしてくれるの? と揶揄うように尋ねるルイスにテオドールは知るかと冷たく返す。
「まぁ、そんなわけで、テオもそろそろ身を固めろよ。元嫁に公爵夫人必要って勧められてたじゃん」
「リーリエ以外と結婚する気ねぇってずっと言ってんだろうが」
そう言い切るテオドールにルイスは開封済みの封筒を渡す。
「本当は俺もリリの晴れ舞台見たいんだけどね、アンジェリカが俺だけ行くのずるいって拗ねるから、お前に譲るわ。名代、行ってきて」
それはリーリエの叙爵式の招待状だった。
「いい加減、根回し済んだろ? 口説き落とすまで帰ってくんなよ」
勅命って事で、とテオドールにそう命じたルイスは兄の顔をしていた。