生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「リィお姉様! テオお義兄様と一緒にお戻りと言う事はご結婚を決められたのですね! シャロはとても嬉しく思います」

 一番に迎え入れそう言ったのは妹のシャロンだった。

「あ、リィねぇおかえり。思ったより早かったね。テオにぃ時間あるなら今から剣の稽古つけて欲しい」

 そこにやってきた弟のリュオンが、かなり気安くテオドールに稽古を頼む。

「リューせめて明日にしろよ。朝稽古なら付き合ってやる」

 それを当たり前のように受け入れたテオドールがリュオンを愛称で呼びそう約束する。

「お姉様本当におめでとうございます」

 と、抱きついてくる神々しいくらい眩しく可愛い妹を抱きしめて愛でながら、

「待って、おにいさまって何!?」

 と、リーリエは当然の疑問を突っ込む。

「ですから、お姉様とご結婚なさるなら、テオ様は私にとってお義兄様ですよね?」

「いや、まぁそうなんだけど、待って。色々おかしい」

 弟妹達が普通にテオドールに懐いている。しかもさっき決めたばかりの結婚について当たり前に把握されている。
 コレは一体どういう状況だ、とリーリエは隣を見遣り、テオドールに説明を求めようとしたところで、

「やぁ、リィもテオもおかえり」

「リィもテオ様もお疲れさまです。テオ様、客室のご用意ができておりますので本日はどうぞ我が家にお泊りください」

 と、アシュレイ公爵と夫人が出てきた。

「アシュレイ公爵、それに夫人もお久しぶりです。こちらこそ夜分に申し訳ありません」

 あのテオドールが敬語、だと!?
 と、リーリエは思わずガン見しそうになったが母の前なので、かろうじて淑女としての体裁を保ってそこに立っていた。

「テオ、今日泊まりなら晩酌に付き合わないかい? 東国のお酒取り寄せたんだよ」

「あなた、程々になさいませ。リィとテオ様も話したいこともあるでしょうし」

「えーテオ来るの先月ぶりだし、僕もテオと話したいんだけどなぁ」

「じゃあ少しだけ。あとで部屋に伺います」

「お父様とリューお兄様だけズルいですわ。テオお義兄様、私とも遊んでくださいませ。薬草と魔石を取りに行きたいのですけど、また護衛をお願いしてもよろしいですか?」

「シャロは前回付き合ったろ。俺明日には帰る予定なんだけど、次回の休みじゃダメか?」

「本当ですか!? 約束ですよ」

「テオ様、朝稽古私も混ざってよろしいですか? ぜひ手合わせしたいですわ」

「お手柔らかに願います。夫人とリュー2人相手は、骨が折れる」

「まぁ、ご謙遜を」

 そんな家族とテオドールのやり取りを見ながら完全に置いてけぼり状態のリーリエは、

「待って、テオ様の馴染み具合がおかしい」

 とツッコむ。
 全員テオドールを愛称で呼んでいるどころか弟妹に至ってはすでに兄扱い。
 結婚決めてからの展開が早過ぎてついていけないリーリエに、

「まぁ、1年以上頻繁に出入りしてれば馴染むよな」

 とテオドールは揶揄うように笑った。
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