生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
ノアは追加で更に資料を提出する。
「ギルバートさんからお預かりしてきました」
「雇用条件契約内容変更の草案?」
屋敷の財務、使用人の雇用に関してはギルバートに一任している。軽微な変更に関しては今までもあったが、こんな風に草案を取りまとめて出されたことはない。
「給与体制の見直しと勤務内容、使用人の健康管理のための福利厚生の充実がメインのようです。賛同頂けるなら詳細はテオドール様がお戻りの際に詰めたいとのことでした」
給与体制については現在の役職固定給に加え、能力手当や貢献度に応じた昇給の導入。
勤務内容については本人の希望により能力に応じた部署への異動ができる制度を導入。
福利厚生については年2回の健康診断の導入とかかりつけ医の導入。気軽にかかりつけ医を利用するための保険制度の導入。
そして有給休暇の制定が主だった改善点だった。
「これはギルバートの案ではないだろ」
命令に忠実な男だ。
求められれば全て応えるほど有能で、そして出過ぎた意見は決して出さない。
「きっかけはリーリエ様のお茶会と投書箱ですね。改善点を洗い出して2人で詰めたようです」
リーリエは屋敷についてすぐ、使用人達の雇用状況や勤務状況、それぞれの適正について観察し、投書箱を設置してみたり、変装し使用人に混ざっての労働してみたり、お茶会での雑談を通して意見を集めていった。
「経費が増える事についてどうするつもりだ?」
「新たに事業を立ち上げるそうです。その利益で賄うので国庫に追加予算申請はせず、テオドール様の権限が効く管轄内で納めるようです」
すでに出来上がっている事業計画書も添付されていた。
そこには商会を立ち上げることや販売予定の薬や魔道具、その素材の一覧が載っていた。
それらはアルカナ王国では貴重な類いのものばかりで、実現し軌道に乗れば利益も出るだろう。
が、どう見ても1ヶ月やそこらで準備できる内容ではない。
「つまり、屋敷の使用人の能力開発を実施し、能力に応じた仕事を請負う代わりに待遇を改善したいと。随分、好き勝手にやってるな」
「言質は結婚証明書にサインした日に取ったと、リーリエ様はおっしゃってましたが」
「…………言った」
確かに"好きにしろ"と言ったが、遥かにテオドールの想定の範囲を超えていた。
人質とは一体? と疑問が頭を掠めたが深く追求しても意味がない気がした。
「ただ、あくまでまだ稼働前の案ですね。テオドール様が否というなら別の方法を考えると」
テオドールは別邸で嬉々として応戦してきたリーリエを思い出し、頭を横に振る。
言ったら言った分だけおそらく代案をいくらでも出してくるに違いない。
それも心底楽しそうに。
提案書の内容はどれも申し分なく、きっと稼働すればこれ以上の事も考えているのだろうとリーリエの顔が浮かぶ。
「……屋敷で反発は起きなかったのか?」
「戸惑いがなかったわけではないですが、今はほとんど賛成派ですね。リーリエ様が1人ずつ丁寧に面談され、交流し、指導できる体制を整えていったことと、あとはテオドール様への恩義からですかね。あなたは敵が多いですから、我々も対抗手段が欲しいのですよ」
テオドールに救われた過去がある。だから重荷ではなく、支えになりたい。そのための力が欲しい。
リーリエが示したのはそうなれるかもしれない"可能性"
彼女を受け入れるには充分な理由だった。
「ギルバートさんからお預かりしてきました」
「雇用条件契約内容変更の草案?」
屋敷の財務、使用人の雇用に関してはギルバートに一任している。軽微な変更に関しては今までもあったが、こんな風に草案を取りまとめて出されたことはない。
「給与体制の見直しと勤務内容、使用人の健康管理のための福利厚生の充実がメインのようです。賛同頂けるなら詳細はテオドール様がお戻りの際に詰めたいとのことでした」
給与体制については現在の役職固定給に加え、能力手当や貢献度に応じた昇給の導入。
勤務内容については本人の希望により能力に応じた部署への異動ができる制度を導入。
福利厚生については年2回の健康診断の導入とかかりつけ医の導入。気軽にかかりつけ医を利用するための保険制度の導入。
そして有給休暇の制定が主だった改善点だった。
「これはギルバートの案ではないだろ」
命令に忠実な男だ。
求められれば全て応えるほど有能で、そして出過ぎた意見は決して出さない。
「きっかけはリーリエ様のお茶会と投書箱ですね。改善点を洗い出して2人で詰めたようです」
リーリエは屋敷についてすぐ、使用人達の雇用状況や勤務状況、それぞれの適正について観察し、投書箱を設置してみたり、変装し使用人に混ざっての労働してみたり、お茶会での雑談を通して意見を集めていった。
「経費が増える事についてどうするつもりだ?」
「新たに事業を立ち上げるそうです。その利益で賄うので国庫に追加予算申請はせず、テオドール様の権限が効く管轄内で納めるようです」
すでに出来上がっている事業計画書も添付されていた。
そこには商会を立ち上げることや販売予定の薬や魔道具、その素材の一覧が載っていた。
それらはアルカナ王国では貴重な類いのものばかりで、実現し軌道に乗れば利益も出るだろう。
が、どう見ても1ヶ月やそこらで準備できる内容ではない。
「つまり、屋敷の使用人の能力開発を実施し、能力に応じた仕事を請負う代わりに待遇を改善したいと。随分、好き勝手にやってるな」
「言質は結婚証明書にサインした日に取ったと、リーリエ様はおっしゃってましたが」
「…………言った」
確かに"好きにしろ"と言ったが、遥かにテオドールの想定の範囲を超えていた。
人質とは一体? と疑問が頭を掠めたが深く追求しても意味がない気がした。
「ただ、あくまでまだ稼働前の案ですね。テオドール様が否というなら別の方法を考えると」
テオドールは別邸で嬉々として応戦してきたリーリエを思い出し、頭を横に振る。
言ったら言った分だけおそらく代案をいくらでも出してくるに違いない。
それも心底楽しそうに。
提案書の内容はどれも申し分なく、きっと稼働すればこれ以上の事も考えているのだろうとリーリエの顔が浮かぶ。
「……屋敷で反発は起きなかったのか?」
「戸惑いがなかったわけではないですが、今はほとんど賛成派ですね。リーリエ様が1人ずつ丁寧に面談され、交流し、指導できる体制を整えていったことと、あとはテオドール様への恩義からですかね。あなたは敵が多いですから、我々も対抗手段が欲しいのですよ」
テオドールに救われた過去がある。だから重荷ではなく、支えになりたい。そのための力が欲しい。
リーリエが示したのはそうなれるかもしれない"可能性"
彼女を受け入れるには充分な理由だった。