生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「コチラの影はリーリエ様につけてますが、今のところカナン王国やリーリエ様個人の影と言った者との接触は一切ありません。カナン王国にやっている間者からもカナン国内で大きな変化はなしと報告が上がっています。念のため監視は続けて行こうかと思っていますが、よろしいですか?」
「……ああ、そうだな。詳細を聞くためにも一旦屋敷に戻る事にする」
「直ぐに手配をします。いやぁーアンナが喜びそうです」
ノアの言葉に反応し、テオドールの眉間に再度皺が刻まれる。
屋敷に戻ればこれでもかとアンナから小言を言われる場面しか思い浮かばず、せっかく引いた頭痛が復活しそうだ。
「そんなにあからさまに嫌そうな顔をするなよ。どう考えても現状はテオに分が悪い」
仕事外で話す時の口調に戻したノアはそう言って肩をすくめる。
「まぁ、気持ちはわかるけどな。その見目で随分と酷い目に遭ってきたし、政略結婚で押しつけられなきゃ妻を持つことも無かっただろうから、どう関わればいいのかわからず、持て余してるのも分かる。けど、まぁお前はもう少し自分の事を大事にしてくれよ。俺たちのためにもさ」
夜会でリーリエに言われたことを不意に思い出す。
信じて支える者のために、自分の価値を見誤るな、と。
「まぁ、長い付き合いになるんだ。興味が向いているのはいい傾向だと思うぞ」
初めは関わるつもりは一切なかった。
突き放せば、関わらなければ、それでいいと思っていたのに。
「……興味、か」
リーリエから向けられる笑顔が、感情が、今までの自分に向けられてきたそれらとあまりに違いすぎて。
持て余しているそれを不快に思っていないことも確かで。
「気にならなければわざわざテオがここまで調べたりしないだろ? 事前に送られてきた姿絵さえ見なかったくせに」
全権代理であるルイスの命を断る術を持っていなかっただけで、この結婚に興味などなかった。
強いて言えば生贄に選ばれた相手の運のなさに同情したくらいで。
だからと言って、寄り添うつもりは全く無かった。
自分の周りには"死"が多すぎる。
戦場以外で、誰かを失くすのはもう見たくない。
「……らしくない事をしている自覚はある」
「いいんじゃないか? まぁ、仮に権力争いに巻き込まれたとしても俺たちがリーリエ様に危害は加えさせないから、安心して悩め。そしてアンナからの叱責を心して聞くがいいさ」
「……お前、楽しんでないか?」
「そりゃ面白いだろ。天下の死神が10代の女の子に振り回されてアタフタしてたら」
「おーまーえーなぁ!!」
イラッとしたテオドールが睨みつけるが、ノアは涼しげな表情で笑うだけ。
「さて、それでは私は仕事に戻ります。手配が済み次第カラスを送りますので」
友人から執事に戻ったノアはいつも通りの動作で礼をして、静かに退出して行った。
ノアは廊下を歩きながら屋敷で過ごすリーリエの姿を思い出す。
テオドールは知らない。
彼女がいつもテオドールの事を待っている事も、常にテオドールの負担を軽減する方法を模索している事も。
テオドールに救われ、雇われている自分達では築けないテオドールとの対等な関係をリーリエなら結べるかもしれない。
そんな風に願ってしまうのだ。
早く大人になり過ぎて、色んなものを取りこぼし、人並みの甘えも幸せも許されなかった主人が平穏な生活を享受できることを祈らずにはいられなかった。
「……ああ、そうだな。詳細を聞くためにも一旦屋敷に戻る事にする」
「直ぐに手配をします。いやぁーアンナが喜びそうです」
ノアの言葉に反応し、テオドールの眉間に再度皺が刻まれる。
屋敷に戻ればこれでもかとアンナから小言を言われる場面しか思い浮かばず、せっかく引いた頭痛が復活しそうだ。
「そんなにあからさまに嫌そうな顔をするなよ。どう考えても現状はテオに分が悪い」
仕事外で話す時の口調に戻したノアはそう言って肩をすくめる。
「まぁ、気持ちはわかるけどな。その見目で随分と酷い目に遭ってきたし、政略結婚で押しつけられなきゃ妻を持つことも無かっただろうから、どう関わればいいのかわからず、持て余してるのも分かる。けど、まぁお前はもう少し自分の事を大事にしてくれよ。俺たちのためにもさ」
夜会でリーリエに言われたことを不意に思い出す。
信じて支える者のために、自分の価値を見誤るな、と。
「まぁ、長い付き合いになるんだ。興味が向いているのはいい傾向だと思うぞ」
初めは関わるつもりは一切なかった。
突き放せば、関わらなければ、それでいいと思っていたのに。
「……興味、か」
リーリエから向けられる笑顔が、感情が、今までの自分に向けられてきたそれらとあまりに違いすぎて。
持て余しているそれを不快に思っていないことも確かで。
「気にならなければわざわざテオがここまで調べたりしないだろ? 事前に送られてきた姿絵さえ見なかったくせに」
全権代理であるルイスの命を断る術を持っていなかっただけで、この結婚に興味などなかった。
強いて言えば生贄に選ばれた相手の運のなさに同情したくらいで。
だからと言って、寄り添うつもりは全く無かった。
自分の周りには"死"が多すぎる。
戦場以外で、誰かを失くすのはもう見たくない。
「……らしくない事をしている自覚はある」
「いいんじゃないか? まぁ、仮に権力争いに巻き込まれたとしても俺たちがリーリエ様に危害は加えさせないから、安心して悩め。そしてアンナからの叱責を心して聞くがいいさ」
「……お前、楽しんでないか?」
「そりゃ面白いだろ。天下の死神が10代の女の子に振り回されてアタフタしてたら」
「おーまーえーなぁ!!」
イラッとしたテオドールが睨みつけるが、ノアは涼しげな表情で笑うだけ。
「さて、それでは私は仕事に戻ります。手配が済み次第カラスを送りますので」
友人から執事に戻ったノアはいつも通りの動作で礼をして、静かに退出して行った。
ノアは廊下を歩きながら屋敷で過ごすリーリエの姿を思い出す。
テオドールは知らない。
彼女がいつもテオドールの事を待っている事も、常にテオドールの負担を軽減する方法を模索している事も。
テオドールに救われ、雇われている自分達では築けないテオドールとの対等な関係をリーリエなら結べるかもしれない。
そんな風に願ってしまうのだ。
早く大人になり過ぎて、色んなものを取りこぼし、人並みの甘えも幸せも許されなかった主人が平穏な生活を享受できることを祈らずにはいられなかった。