生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
 ルイスはふっと息を吐き相好を崩すと窓の外に視線をやった。

「結論から言えば、俺も知らないんだよねー。リリは秘密主義だから」

 通常魔力適性者が体内に保有できる魔力の平均値は3000前後、2属性なら5000前後保有している事もざらなのに、リーリエの保有量はかなり少ない。
 だが、その魔力量とは不釣り合いなほど高度な魔術を操っている。

「そんな特異性を有しているにも関わらず、リリの目立った功績は魔術詠唱省略に関する論文一本だけ」

 それも学校を飛び級で卒業するために仕方なく書いたのだと本人から聞いている。

「データ上の偽りはない。それ以外の測れないところで何かしている、としか現状は推測できない」

 おそらくリーリエのスキルと関係するのだろうが、リーリエが魔力を発動するとき、魔法系のスキル発動は感知されず、鑑定にかけてもスキルは空白。
 スキル表示の強要は犯罪に当たり、そもそも鑑定で読み取ろうにもリーリエのスキルレベルより高位な鑑定者がいないため本人が非公開としている以上知る術はない。
 そうまでして隠すモノに興味がそそられるが、下手に刺激して返り討ちに遭うのは避けたい。

「テオドールなら知っているのかと思ったんだけど、当てが外れたみたいだね」

 ルイスは既に把握している事実を淡々と聞かせた。
 肩をすくめ、テオドールとそこに広げられた資料に目をやる。
 テオドールの反応を見るに演技でも駆け引きでもなく、本当に何も知らなかったのだろう。

「何故、俺が知っていると思った?」

「俺も聞きたい。辺境や戦地を転々としていたはずのキミが、いつ、どうやって、リリと知り合ったのか?」

 テオドールの質問に答えることなくルイスはテオドールに問う。
 テオドールがリーリエに初めて会ったのは彼女がこの国に渡り、結婚の書類に調印した日だ。
 だが、ルイスが知りたい答えはそれでは無いはずだ。
 探るような不躾な視線を真っ向から受け取ったテオドールは口角を上げ嘲笑で返す。
テオドールの中にその答えはない以上、沈黙する以外の選択肢はない。
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