生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
21.生贄姫はホワイト経営を望む。
「さて、旦那さま。こちらをご覧ください。ノアに協力してもらい旦那さまの仕事量を見える化いたしました」
差し出された資料はテオドールのスケジュールがびっしりと書き込まれ、グラフ化されていた。
「お分かりでしょうか? 旦那さまは働き過ぎです。過重労働、最早1人ブラック企業です」
ビシッと指示棒で壁のグラフを叩くリーリエ。テオドールの睡眠の少なさや休暇のなさを指摘する。
「それがどうした」
「どうした、じゃありません!! 倒れたらどうするんですか?」
「それくらいで倒れるわけ」
「倒れます。仕事は分割したり代理を立てられても、旦那さまの代わりはいないんですよ? 私に自国を守りたいならアルカナで死ぬなと言われておきながら、早々に、私の事を未亡人にする気ですか」
淡々とした口調で冷静に話すリーリエのメガネの奥から冷ややかな圧を感じ、テオドールの体感温度が低下する。
「業務量も内容も所属人数や得意分野に対して理不尽なくらい多すぎます。旦那さまが優秀なのをいい事に良いように王太子殿下に押し付けられてるじゃないですか!」
念のため騎士団の仕事を過去10年分分析したが、結婚が確定した辺りから急激に業務が増えている。
確実にルイスの仕業だ。
「だが、特に問題なく遂行できているが」
そう、できてしまうから問題なのだ。
リーリエはため息をこれみよがしにつく。
「旦那さまは優秀ですからこなせちゃうかもしれませんけど、上が休まないと部下は休めないんですよ? 部下を社畜にして過労死させるおつもりですか?」
ルイスは徹底的に利用するつもりだ。
リーリエの事も、テオドールの事も。
1番高く買ってくれるルイスに自分の事を売りつけたのだから、リーリエとしてはこの事態は想定の範囲内だ。だが、心情的には舌打ちしたくなる。
「うちの連中はそんなにヤワでは」
「ところで、旦那さま。家庭を顧みない働き方をした殿方の末路をご存知でしょうか?」
言葉を遮って向けられるリーリエの視線は厳しく、いつものリーリエからは考えられないほど冷たい声に思わず黙る。
「妻には愛想を尽かされ、子どもは父を敬わず、老後はヒトとの繋がりもなくし、家族からの信頼も得られず、蔑ろにしてきた事実を棚上げに家族に尽くした仕打ちがコレかなどと寝言を宣いながら、一人寂しく余生を過ごす、そんな人生は果たして幸せと呼べるでしょうか?」
パシパシと掌で指示棒を叩きながら、リーリエはにっこり微笑む。
だが、その目は決して笑ってなどいなかった。
差し出された資料はテオドールのスケジュールがびっしりと書き込まれ、グラフ化されていた。
「お分かりでしょうか? 旦那さまは働き過ぎです。過重労働、最早1人ブラック企業です」
ビシッと指示棒で壁のグラフを叩くリーリエ。テオドールの睡眠の少なさや休暇のなさを指摘する。
「それがどうした」
「どうした、じゃありません!! 倒れたらどうするんですか?」
「それくらいで倒れるわけ」
「倒れます。仕事は分割したり代理を立てられても、旦那さまの代わりはいないんですよ? 私に自国を守りたいならアルカナで死ぬなと言われておきながら、早々に、私の事を未亡人にする気ですか」
淡々とした口調で冷静に話すリーリエのメガネの奥から冷ややかな圧を感じ、テオドールの体感温度が低下する。
「業務量も内容も所属人数や得意分野に対して理不尽なくらい多すぎます。旦那さまが優秀なのをいい事に良いように王太子殿下に押し付けられてるじゃないですか!」
念のため騎士団の仕事を過去10年分分析したが、結婚が確定した辺りから急激に業務が増えている。
確実にルイスの仕業だ。
「だが、特に問題なく遂行できているが」
そう、できてしまうから問題なのだ。
リーリエはため息をこれみよがしにつく。
「旦那さまは優秀ですからこなせちゃうかもしれませんけど、上が休まないと部下は休めないんですよ? 部下を社畜にして過労死させるおつもりですか?」
ルイスは徹底的に利用するつもりだ。
リーリエの事も、テオドールの事も。
1番高く買ってくれるルイスに自分の事を売りつけたのだから、リーリエとしてはこの事態は想定の範囲内だ。だが、心情的には舌打ちしたくなる。
「うちの連中はそんなにヤワでは」
「ところで、旦那さま。家庭を顧みない働き方をした殿方の末路をご存知でしょうか?」
言葉を遮って向けられるリーリエの視線は厳しく、いつものリーリエからは考えられないほど冷たい声に思わず黙る。
「妻には愛想を尽かされ、子どもは父を敬わず、老後はヒトとの繋がりもなくし、家族からの信頼も得られず、蔑ろにしてきた事実を棚上げに家族に尽くした仕打ちがコレかなどと寝言を宣いながら、一人寂しく余生を過ごす、そんな人生は果たして幸せと呼べるでしょうか?」
パシパシと掌で指示棒を叩きながら、リーリエはにっこり微笑む。
だが、その目は決して笑ってなどいなかった。