生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
22.生贄姫は決意する。
「……何故、リーリエは俺に力を貸してくれる?」
青と金の双眸が真っ直ぐにリーリエを射抜く。
「可能な限り調べたが、分からなかった」
テオドールはパチンと指を鳴らし、大量の資料を表出させる。
それは全てリーリエに関するものだ。
「リーリエの言う通り、俺には負うべき責任と、護るべき部下がいる。だから、リーリエの口から聞かせて欲しい」
あれだけの業務をこなしながら、短期間でこれだけの量の資料に目を通したと言うのか。
その事実と真剣に向き合ってくれたその姿勢にリーリエは敬意を示さずにはいられない。
「これを見て、旦那さまは私の事をどう思われましたか?」
「リーリエなら、わざわざアルカナに来る必要は無かっただろう。これほどの用意ができる人間なら自国でもっと重用されていたはずだ。それでもアルカナに単身でやってきたのなら、それがリーリエにとっての最善手だったのだろう」
リーリエは目を閉じて、しばし思案する。
目を開けたリーリエは、メガネを外し、髪を解く。
「旦那さま、良ければ少し夜風にあたりませんか? お見せしたいものもありますし」
これは上部だけの答えではなく、駆け引きもせず、誠実に答えなくては、と。
リーリエはそう決断した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
いつもよりだいぶラフなワンピースに羽織を纏ったリーリエは月を仰ぐ。
今夜は2つの月が共に満月だから、随分明るい。
先に指定した場所に来ていたテオドールを見つけ、足早に駆け寄る。
「お待たせいたしました、旦那さま」
ふわりと風に揺れるワンピースの裾をつまみカテーシーする。
「ふふっ、旦那さまとこんな夜更けにお会いするのは初めてですね! なんだかいけない事をしている気がします」
そう言ってふわりと笑うリーリエにテオドールは目を奪われる。
豪華なドレスも、装飾品もないのに、月明かりに照らされた蜂蜜色の髪が金糸のように輝き、翡翠色の瞳が深い色に染まっていて、ひどく神秘的に見えた。
「何を言っているんだか。第一、そんな薄着で警戒心が足りないんじゃないか?」
そんな心情を誤魔化すように呆れた声でそう言うとテオドールはそっぽを向いた。
「そうでしょうか? 私より旦那さまの方がよほど警戒心が足りないですよ。そんなに色気を垂流して襲われたらどうします?」
「はっ?」
「月明かりを背景に佇む旦那さまはいつもに増して色気があって素敵ですし、まるで一枚の絵画のようです。私なんかよりもむしろ旦那さまが変質者に襲われないか心配になります! 世の全令嬢悩殺ものですよ! あぁ、旦那さまがかっこよすぎて拐かされでもしたら、どうしましょう」
「……あり得ない話だが、万一襲ってくる奴がいたら全員もれなくあの世に送ってやるから安心しろ」
「さすが旦那さま、頼もしいですね」
目を細めてリーリエが楽しそうに微笑む。
「遠慮も謙虚さも無くなってきたな。飼ってた猫はどこに行った」
呆れたように、でもどこか優しい口調でテオドールがそう言うので、
「ふふ、きっと世界最強の騎士さまを前に逃亡して行ったのですよ」
リーリエはすかさず応戦する。
2人を包む空気はいつもより柔らかく、テオドールに促されリーリエはゆっくり歩き始めた。
青と金の双眸が真っ直ぐにリーリエを射抜く。
「可能な限り調べたが、分からなかった」
テオドールはパチンと指を鳴らし、大量の資料を表出させる。
それは全てリーリエに関するものだ。
「リーリエの言う通り、俺には負うべき責任と、護るべき部下がいる。だから、リーリエの口から聞かせて欲しい」
あれだけの業務をこなしながら、短期間でこれだけの量の資料に目を通したと言うのか。
その事実と真剣に向き合ってくれたその姿勢にリーリエは敬意を示さずにはいられない。
「これを見て、旦那さまは私の事をどう思われましたか?」
「リーリエなら、わざわざアルカナに来る必要は無かっただろう。これほどの用意ができる人間なら自国でもっと重用されていたはずだ。それでもアルカナに単身でやってきたのなら、それがリーリエにとっての最善手だったのだろう」
リーリエは目を閉じて、しばし思案する。
目を開けたリーリエは、メガネを外し、髪を解く。
「旦那さま、良ければ少し夜風にあたりませんか? お見せしたいものもありますし」
これは上部だけの答えではなく、駆け引きもせず、誠実に答えなくては、と。
リーリエはそう決断した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
いつもよりだいぶラフなワンピースに羽織を纏ったリーリエは月を仰ぐ。
今夜は2つの月が共に満月だから、随分明るい。
先に指定した場所に来ていたテオドールを見つけ、足早に駆け寄る。
「お待たせいたしました、旦那さま」
ふわりと風に揺れるワンピースの裾をつまみカテーシーする。
「ふふっ、旦那さまとこんな夜更けにお会いするのは初めてですね! なんだかいけない事をしている気がします」
そう言ってふわりと笑うリーリエにテオドールは目を奪われる。
豪華なドレスも、装飾品もないのに、月明かりに照らされた蜂蜜色の髪が金糸のように輝き、翡翠色の瞳が深い色に染まっていて、ひどく神秘的に見えた。
「何を言っているんだか。第一、そんな薄着で警戒心が足りないんじゃないか?」
そんな心情を誤魔化すように呆れた声でそう言うとテオドールはそっぽを向いた。
「そうでしょうか? 私より旦那さまの方がよほど警戒心が足りないですよ。そんなに色気を垂流して襲われたらどうします?」
「はっ?」
「月明かりを背景に佇む旦那さまはいつもに増して色気があって素敵ですし、まるで一枚の絵画のようです。私なんかよりもむしろ旦那さまが変質者に襲われないか心配になります! 世の全令嬢悩殺ものですよ! あぁ、旦那さまがかっこよすぎて拐かされでもしたら、どうしましょう」
「……あり得ない話だが、万一襲ってくる奴がいたら全員もれなくあの世に送ってやるから安心しろ」
「さすが旦那さま、頼もしいですね」
目を細めてリーリエが楽しそうに微笑む。
「遠慮も謙虚さも無くなってきたな。飼ってた猫はどこに行った」
呆れたように、でもどこか優しい口調でテオドールがそう言うので、
「ふふ、きっと世界最強の騎士さまを前に逃亡して行ったのですよ」
リーリエはすかさず応戦する。
2人を包む空気はいつもより柔らかく、テオドールに促されリーリエはゆっくり歩き始めた。