生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「さて、話を元に戻しますが、以上が私がアルカナに来た経緯です。そして、旦那さまを支援する理由がアレです」
目的地に着く頃、一周回って落ち着いたリーリエがそう言って指差したのはアンナ達エルフの血を引く侍女や庭師が管理する薬草園だった。
「これは、一体?」
アンナが細々と薬草の類を育てていた事は知っていた。
だが、今は見渡す限り辺り一帯が様々な草花で生い茂り、その中心地に植えてある植物が金色に発光していた。
「これはラリサの実。ヒールポーションの原料です。キレイでしょ? 満月の夜にその光を浴びて自らも発光し、魔力を貯めるのです」
「ラリサ、だと? それは猛毒種の筈だが」
見覚えのある植物にテオドールは驚き、リーリエを見る。
「確かにラリサ自体は猛毒です。その根から取れる粉は指の先ほどの量で致死、葉の成分は触れるだけで焼け爛れる」
そう言いながらリーリエは葉に素手で触れる。だが、何も起こらない。
「ただし、その実が実る時は全く異なる性質に変化する。この実は治癒能力を飛躍的に向上させるのです」
常時は毒で持って他を牽制し、その種子を動物などに遠くに運ばせるために治癒能力を宿した共存共栄の植物。
アシュレイ領で研究に明け暮れた日々が懐かしく感じる。
「ただ、この実は滅多に実らず、生育がかなり難しいのです」
アシュレイ領では水と風の加護に加え、シャロンの浄化魔法で毒素を調整し、ようやく生産まで漕ぎ着けた。
「すごいでしょう? エルフは森のヒトと呼ばれるだけはありますね。私などでは到底及ばない知識量です」
植物の声を聞き、植物が望む通りに育てるエルフの種族特性。
アンナの植物学に関する知識と探究心は素晴らしく、彼女を中心に沢山の侍女達が育成に関わってくれた。
「それにここにある薬草はティナ達獣人の子が中心に集めてくれました。それをドワーフの血を引く庭師のじぃやさんたちが地属性の魔法と錬金術で生成、妖精族の血を引く子達で調合し、最後に私が精製水に効果付与を行ってできたのが、あのヒールポーションです」
あれは、この屋敷に住む誰が欠けても作ることができなかった。
「これ、ぜーんぶ。みんなが旦那さまの役に立ちたくてがんばったのですよ。私はその気持ちに応えたかった。だから、私の知識を技術を魔力をお貸ししたのです」
リーリエはくるりと優雅に回ってみせる。
「旦那さま、一方的に守られるだけでは苦しいのですよ。みんな、あなたのことが好きだから」
アルカナに来た後は程よく和平が保てる程度の投資だけして、後は好きなだけ推しを愛でる、平穏な毎日。
それでもいいと思っていたけれど、夜会に出て、テオドールを取り巻く状況を理解して、気が変わった。
「私も同じです。私の最愛の推しが蔑ろにされて搾取されるのは我慢ならない」
だって、幸せでいてくれないと愛でがいがないじゃない! 私はアルカナで色んなテオ様を見てニヤニヤしたいのだから、とリーリエは言えない気持ちを心の中で追記した。
「それに、ここに沢山の可能性が詰まってるなんてワクワクしません? "好き"と"面白そう"動く理由としては十分でしょう」
今のリーリエには淑女らしさなんてものはカケラも残っていなかった。
やりたい事は初めから決まっている。
「そんなわけで、旦那さま。私と一緒に面白い事やらかしませんか? 生贄姫も死神も必要のない平穏な毎日が過ごせるようになるその日まで」
目的地に着く頃、一周回って落ち着いたリーリエがそう言って指差したのはアンナ達エルフの血を引く侍女や庭師が管理する薬草園だった。
「これは、一体?」
アンナが細々と薬草の類を育てていた事は知っていた。
だが、今は見渡す限り辺り一帯が様々な草花で生い茂り、その中心地に植えてある植物が金色に発光していた。
「これはラリサの実。ヒールポーションの原料です。キレイでしょ? 満月の夜にその光を浴びて自らも発光し、魔力を貯めるのです」
「ラリサ、だと? それは猛毒種の筈だが」
見覚えのある植物にテオドールは驚き、リーリエを見る。
「確かにラリサ自体は猛毒です。その根から取れる粉は指の先ほどの量で致死、葉の成分は触れるだけで焼け爛れる」
そう言いながらリーリエは葉に素手で触れる。だが、何も起こらない。
「ただし、その実が実る時は全く異なる性質に変化する。この実は治癒能力を飛躍的に向上させるのです」
常時は毒で持って他を牽制し、その種子を動物などに遠くに運ばせるために治癒能力を宿した共存共栄の植物。
アシュレイ領で研究に明け暮れた日々が懐かしく感じる。
「ただ、この実は滅多に実らず、生育がかなり難しいのです」
アシュレイ領では水と風の加護に加え、シャロンの浄化魔法で毒素を調整し、ようやく生産まで漕ぎ着けた。
「すごいでしょう? エルフは森のヒトと呼ばれるだけはありますね。私などでは到底及ばない知識量です」
植物の声を聞き、植物が望む通りに育てるエルフの種族特性。
アンナの植物学に関する知識と探究心は素晴らしく、彼女を中心に沢山の侍女達が育成に関わってくれた。
「それにここにある薬草はティナ達獣人の子が中心に集めてくれました。それをドワーフの血を引く庭師のじぃやさんたちが地属性の魔法と錬金術で生成、妖精族の血を引く子達で調合し、最後に私が精製水に効果付与を行ってできたのが、あのヒールポーションです」
あれは、この屋敷に住む誰が欠けても作ることができなかった。
「これ、ぜーんぶ。みんなが旦那さまの役に立ちたくてがんばったのですよ。私はその気持ちに応えたかった。だから、私の知識を技術を魔力をお貸ししたのです」
リーリエはくるりと優雅に回ってみせる。
「旦那さま、一方的に守られるだけでは苦しいのですよ。みんな、あなたのことが好きだから」
アルカナに来た後は程よく和平が保てる程度の投資だけして、後は好きなだけ推しを愛でる、平穏な毎日。
それでもいいと思っていたけれど、夜会に出て、テオドールを取り巻く状況を理解して、気が変わった。
「私も同じです。私の最愛の推しが蔑ろにされて搾取されるのは我慢ならない」
だって、幸せでいてくれないと愛でがいがないじゃない! 私はアルカナで色んなテオ様を見てニヤニヤしたいのだから、とリーリエは言えない気持ちを心の中で追記した。
「それに、ここに沢山の可能性が詰まってるなんてワクワクしません? "好き"と"面白そう"動く理由としては十分でしょう」
今のリーリエには淑女らしさなんてものはカケラも残っていなかった。
やりたい事は初めから決まっている。
「そんなわけで、旦那さま。私と一緒に面白い事やらかしませんか? 生贄姫も死神も必要のない平穏な毎日が過ごせるようになるその日まで」