生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

26.生贄姫は駆け引きを行う。

 翌日、昼下がり。業務から戻ったテオドールが1番に目にしたのは、テオドールの執務室で勝手にくつろぐルイスの姿だった。

「やっほー、今日は西方の森にサザリスの魔獣3体出たらしいね。その割に戻ってくるの早くてびっくりだよ。流石テオ」

「何故いる」

「んー? お返事取りに」

 来客用ソファで横になり、ご機嫌そうに手を出してくるルイス。
 リーリエの言った通りの展開に、特に驚くこともなくテオドールは預かった封筒を渡す。
受け取ったミントグリーンの封筒をクルリと回してその場で開封し、小さなナイトとポーンの駒と真っ白なカードを取り出す。

「ふはっ、さっすがリリ。相変わらず怖いもの知らずだなぁー」

 破顔し、小さな駒を掌で弄ぶルイスは大事そうに返事を仕舞う。

「テオ、近日中にテオの本邸に公式訪問する。もちろんリリには第3皇子妃として対応してもらうからそのつもりで」

「なんでそうなる?」

 突然の決定にテオドールが聞き返す。
 用があったとしてもリーリエを城内に呼び出すのではなく、正式に手続きをとってルイスがテオドールの屋敷に来るなど本来ならあり得ない。

「熱烈なラブレター貰ったからね。"用があるならお前が来い"ってね♪報酬もふっかけてくるし、そういう強気なとこ、相変わらずで好きだなぁ」

 上機嫌で笑いながらソファで転がるルイスを見て、リーリエの釣りが成功したらしい事は分かった。

「ふふ、リリに会えるの久しぶりで楽しみだなぁ」

 リーリエの返事に満足そうなルイスにテオドールはなんとなく苛立ち、リーリエにはこれのどこが仲が良く見えるのか疑問しか浮かばない。

「さて、ご褒美準備しないとなー。リリに嫌われたくないし」

 早々に立ち去ろうとするルイスにテオドールは思わず尋ねる。

「リーリエを何だと思ってるんだ」

「リリのこと? 好きだよ。ぐちゃぐちゃに甘やかして、焦らして、俺の事しか考えられなくしたいくらい」

 さらっと爆弾を落とすルイスにテオドールは目を見開く。

「まぁ、でもそんなことしたら、リリは二度と俺に笑ってくれなくなるからしないけど。初婚は譲るよ。どうせテオは手を出す気ないでしょ?」

 言葉を紡げなくなったテオドールに満面の笑みを向けたルイスは、

「そうそう、ステラが回復してね。最近は以前にも増して精力的に社交に励んでるみたい。良かったね、死ななくて」

 そう付け足すとヒラヒラと手を振って今度こそ執務室から出て行った。
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