生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
27.生贄姫は指南する。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。旦那さま」
お手本のようなカテーシーをし、綺麗に微笑むリーリエの凛とした立ち振る舞いにテオドールは目を見張る。
本日のリーリエの装いは客人を迎えるにあたり、かなり気合の入ったものとなっていた。
淡い水色をベースに下に行くほど濃い黒になるグラデーションドレスに金糸の刺繍が美しく、リーリエの耳飾りや簪、ネックレスに至るまで使われている宝石の色は全て碧と金で統一されていた。
逃走していた猫が帰って来たらしいリーリエは、どこからどう見ても一分の隙もない立派な淑女になっていた。
「さて、旦那さま。お時間もない事ですし、打合せしましょうか」
淑女らしく微笑んでリーリエはそう切り出した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『近日中に行くからよろしく』とルイスに言い渡された日、テオドールが屋敷に戻ると屋敷内は騒然としていた。
「お迎えもできず申し訳ありません、旦那さま」
テオドールを見つけたリーリエが白い封筒を渡す。裏には王家の紋章が押されていた。
歩きながら中を確認すれば、明日の17時に宰相と宮廷魔術師長と財務大臣を伴って訪問するからよろしくねという内容が正式な文章として書かれていた。
「思ったよりも行動が早かった、というより王太子殿下の予定通りみたいですね」
おかげで準備に追われていますと屋敷の状況を説明。
「急だな。間に合いそうか?」
今まで王家の訪問など受けた事はなく、使用人たちも王家と直轄の家臣の対応はした事がない。
「滞りなく。今朝から応対の手配をしていますし、うちの使用人は優秀ですから」
だが、リーリエには想定内だったらしく大丈夫と言い切る。
「ですが、答え合わせは明日の打ち合わせまで延期させてくださいませ」
申し訳無さそうにそう話を切り上げたあと、テオドールがその日リーリエに会う事はなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さて、時間もないので今回の目的を共有しておきたいと思います。目的は牽制と情報操作です」
リーリエは封筒を2種類机に並べる。
「この二つ、何が違うかお分かりですか?」
一つはルイスから渡された藤色の封筒、もう一つは訪問を告げるために届けられた白色の封筒だ。
「個か、公か、か?」
「さようでございます。殿下達にはそれぞれを象徴する色が割り振られておりますし、上級貴族もそれに倣うことが多いです」
リーリエも例に漏れずリーリエ・アシュレイ個人として封書を出すときはミントグリーンを使用している。
藤色の封筒の隣に招待状とクラブのジャックを置く。
「トランプにはそれぞれ意味があります。クラブは知識、ジャックは騎士。そして、私の今の名前はリーリエ・アシュレイ・アルカナですが、こちらの招待状はアルカナが抜けています。これでどういう意味になるか読み取れますか?」
「ルイスが、リーリエ個人に騎士に関する事で知識を貸せと?」
「まぁ、おおよそはそんな感じです。ここからは推測になるのですが、騎士団の事にも関わらず、旦那さまを差し置いて私を指名してきたというところに意味があります」
経験上、120%面倒ごとだ。
リーリエは化粧が崩れないように顔には出さず、内心で顔を顰めた。
お手本のようなカテーシーをし、綺麗に微笑むリーリエの凛とした立ち振る舞いにテオドールは目を見張る。
本日のリーリエの装いは客人を迎えるにあたり、かなり気合の入ったものとなっていた。
淡い水色をベースに下に行くほど濃い黒になるグラデーションドレスに金糸の刺繍が美しく、リーリエの耳飾りや簪、ネックレスに至るまで使われている宝石の色は全て碧と金で統一されていた。
逃走していた猫が帰って来たらしいリーリエは、どこからどう見ても一分の隙もない立派な淑女になっていた。
「さて、旦那さま。お時間もない事ですし、打合せしましょうか」
淑女らしく微笑んでリーリエはそう切り出した。
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『近日中に行くからよろしく』とルイスに言い渡された日、テオドールが屋敷に戻ると屋敷内は騒然としていた。
「お迎えもできず申し訳ありません、旦那さま」
テオドールを見つけたリーリエが白い封筒を渡す。裏には王家の紋章が押されていた。
歩きながら中を確認すれば、明日の17時に宰相と宮廷魔術師長と財務大臣を伴って訪問するからよろしくねという内容が正式な文章として書かれていた。
「思ったよりも行動が早かった、というより王太子殿下の予定通りみたいですね」
おかげで準備に追われていますと屋敷の状況を説明。
「急だな。間に合いそうか?」
今まで王家の訪問など受けた事はなく、使用人たちも王家と直轄の家臣の対応はした事がない。
「滞りなく。今朝から応対の手配をしていますし、うちの使用人は優秀ですから」
だが、リーリエには想定内だったらしく大丈夫と言い切る。
「ですが、答え合わせは明日の打ち合わせまで延期させてくださいませ」
申し訳無さそうにそう話を切り上げたあと、テオドールがその日リーリエに会う事はなかった。
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「さて、時間もないので今回の目的を共有しておきたいと思います。目的は牽制と情報操作です」
リーリエは封筒を2種類机に並べる。
「この二つ、何が違うかお分かりですか?」
一つはルイスから渡された藤色の封筒、もう一つは訪問を告げるために届けられた白色の封筒だ。
「個か、公か、か?」
「さようでございます。殿下達にはそれぞれを象徴する色が割り振られておりますし、上級貴族もそれに倣うことが多いです」
リーリエも例に漏れずリーリエ・アシュレイ個人として封書を出すときはミントグリーンを使用している。
藤色の封筒の隣に招待状とクラブのジャックを置く。
「トランプにはそれぞれ意味があります。クラブは知識、ジャックは騎士。そして、私の今の名前はリーリエ・アシュレイ・アルカナですが、こちらの招待状はアルカナが抜けています。これでどういう意味になるか読み取れますか?」
「ルイスが、リーリエ個人に騎士に関する事で知識を貸せと?」
「まぁ、おおよそはそんな感じです。ここからは推測になるのですが、騎士団の事にも関わらず、旦那さまを差し置いて私を指名してきたというところに意味があります」
経験上、120%面倒ごとだ。
リーリエは化粧が崩れないように顔には出さず、内心で顔を顰めた。