生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
28.生贄姫は失態を犯す。
「いつもこんなやり取りをしているのか?」
リーリエはルイスから封筒を受け取り、すぐさま返事をした。
ルイスはリーリエからの返事を一瞬で読み解いた。
「むしろこんなやり取りしかしていません。旦那さま、取引が成功するか否かは根回し9割。場に着いた時には既に終結しているものなのです」
リーリエは微笑んで解説する。
「そして、この場においてプレイヤーは旦那さま。私はあくまで旦那さまの"所有物"でございます」
リーリエは胸に手を置き、テオドールにお辞儀をする。
「私の発言権を含め、決定権は全て旦那さまにあります。如何様にもご決断ください」
まるで自分を本当に物であるかのように扱うリーリエにテオドールは顔を顰める。
「それで? 俺に何をさせたい」
「好きに振る舞って頂いて構いません。が、もし可能なら夫婦仲が良好だと見せられたらなお良しと言ったところでしょうか? 縁談避けにもなりますし」
風避けとしてお使いくださいと淑女としては文句なしの笑顔で付け足すリーリエに、テオドールの眉間にシワが寄る。
駆け引きをしたのも、場を用意したのも、ルイスから報酬を出させたのも、全てリーリエだと言うのに、全てお膳立てされた上で動けと言う。
"怠惰"
"昼行燈"
以前ルイスが言った言葉の意味がわかった気がした。
「俺に傀儡をやれと?」
テオドールから冷たい声が発せられ、細められた目が彼の不機嫌さを強調する。
「いえ、そんなつもりは……」
リーリエは翡翠色の目を見開き、たじろぐ。
「気に入らない」
会うことも会話もなく駆け引きが成立するルイスとリーリエの関係も。
そこに立ち入る事も、読み解く事もできない自分も。
交渉のために自分の事を軽く扱うリーリエの事も。
何もかも、気に入らない。
「あの、旦那さま?」
テオドールから無表情で見下ろされたリーリエの瞳が揺らぐ。
いつもはくるくると楽しげに変わる翡翠色の瞳は困惑を表していた。
「気に入らない、な」
多分これは八つ当たりで、嫉妬というものなのだろうとテオドールは嘲笑する。
テオドールの言葉や態度に動けなくなったリーリエの首筋にテオドールは唇を寄せる。
「……っ」
リーリエの首筋に痛みが走り、紅く色づく。
「このほうが俺のものだと、分かりやすくていいだろう」
一瞬頭の中が真っ白になったリーリエはテオドールの言葉で状況を把握し、耳まで赤くなりながら先程テオドールが触れた首筋を掌で押さえる。
「前から言っている。警戒心が無さすぎる、と」
時間だと促され、リーリエはテオドールと連れ立って歩き出す。
何をそんなに怒っているのか、とか。
何が気に障ったのか、とか。
言いたい事も聞きたい事も沢山あるのに、それらはリーリエの中で渦巻いて、言葉になる事はなかった。
リーリエはルイスから封筒を受け取り、すぐさま返事をした。
ルイスはリーリエからの返事を一瞬で読み解いた。
「むしろこんなやり取りしかしていません。旦那さま、取引が成功するか否かは根回し9割。場に着いた時には既に終結しているものなのです」
リーリエは微笑んで解説する。
「そして、この場においてプレイヤーは旦那さま。私はあくまで旦那さまの"所有物"でございます」
リーリエは胸に手を置き、テオドールにお辞儀をする。
「私の発言権を含め、決定権は全て旦那さまにあります。如何様にもご決断ください」
まるで自分を本当に物であるかのように扱うリーリエにテオドールは顔を顰める。
「それで? 俺に何をさせたい」
「好きに振る舞って頂いて構いません。が、もし可能なら夫婦仲が良好だと見せられたらなお良しと言ったところでしょうか? 縁談避けにもなりますし」
風避けとしてお使いくださいと淑女としては文句なしの笑顔で付け足すリーリエに、テオドールの眉間にシワが寄る。
駆け引きをしたのも、場を用意したのも、ルイスから報酬を出させたのも、全てリーリエだと言うのに、全てお膳立てされた上で動けと言う。
"怠惰"
"昼行燈"
以前ルイスが言った言葉の意味がわかった気がした。
「俺に傀儡をやれと?」
テオドールから冷たい声が発せられ、細められた目が彼の不機嫌さを強調する。
「いえ、そんなつもりは……」
リーリエは翡翠色の目を見開き、たじろぐ。
「気に入らない」
会うことも会話もなく駆け引きが成立するルイスとリーリエの関係も。
そこに立ち入る事も、読み解く事もできない自分も。
交渉のために自分の事を軽く扱うリーリエの事も。
何もかも、気に入らない。
「あの、旦那さま?」
テオドールから無表情で見下ろされたリーリエの瞳が揺らぐ。
いつもはくるくると楽しげに変わる翡翠色の瞳は困惑を表していた。
「気に入らない、な」
多分これは八つ当たりで、嫉妬というものなのだろうとテオドールは嘲笑する。
テオドールの言葉や態度に動けなくなったリーリエの首筋にテオドールは唇を寄せる。
「……っ」
リーリエの首筋に痛みが走り、紅く色づく。
「このほうが俺のものだと、分かりやすくていいだろう」
一瞬頭の中が真っ白になったリーリエはテオドールの言葉で状況を把握し、耳まで赤くなりながら先程テオドールが触れた首筋を掌で押さえる。
「前から言っている。警戒心が無さすぎる、と」
時間だと促され、リーリエはテオドールと連れ立って歩き出す。
何をそんなに怒っているのか、とか。
何が気に障ったのか、とか。
言いたい事も聞きたい事も沢山あるのに、それらはリーリエの中で渦巻いて、言葉になる事はなかった。