生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「とりあえず、騎士団合同演習までに一区切りつけられるように頑張ります」
一応妃殿下本職ですしねとリーリエは笑う。
「騎士団の皆さまにリーリエとしてお会いするのはなんだか寂しい気もいたしますが、今回ばかりは仕方がないですね」
ヒールポーションの効果実験の名目で幾度となく通った訓練所。
リーリエはテオドールの許可を得て、ヒールポーションは、あくまで自然治癒力を高めるもので、その肉体の限界を超えた効力はないといった知識の普及を行なっていった。
回復魔法が必要な緊急時の手段としての運用を約束し、薬効の調整や生成が再現できるように暗号化したポーションレシピに落として行った。
その傍らで熱中症対策や怪我をした時の応急処置方法の講義を実施し、経口補水液以外にも蜂蜜レモン漬けやきゅうりの塩漬けなどの差し入れを行っていたリーリエはいつのまにか第二騎士団でファンクラブができるほど馴染んでいた。
特にゼノは毎回リーリエの入隊を口説いており、その度にテオドールに訓練内容を増加されしごかれていた。
「リーリエが来るとゼノがうるさいんだがな」
「ゼノ様は本当にお仕事熱心で素敵ですよね。落ち着いたら私もまた訓練に混ざってゼノ様と手合わせ願いたいです。ゼノ様のおかげで旦那さまのワーカーホリックも抑えられておりますし、ゼノ様の功績は計り知れませんね」
「普通はゼノとの手合わせなんて嫌がるんだがな。そもそもリーリエのそのゼノに対する絶対的信頼はどこから来るんだ?」
やや呆れ気味にテオドールが尋ねる。
「どこ、と言われましても。だってゼノ様旦那さまの事大好きじゃありませんか? 旦那さまの素敵さが分かる方に悪い方はいらっしゃらないのですよ」
毎回推し2人の絡みを見に行っていると言っても過言ではないリーリエからすれば、むしろ何故分からないのかが分からない。
「まぁでもあまりに仲が良すぎて、基本ノーマルカップ推しの私も一部の貴腐人に絶大な人気を誇る開けてはいけない扉が開きそうで心配になります。ヘタレ受けアリかもしれない」
目の前でテオドールとゼノの並ぶ姿を見るたび、内心で尊いと叫び、ニヤニヤを押しとどめて平静を装ってはいる身としては、前世で二次創作に手を出さなかった事が悔やまれてならない。
「……とりあえず、一生開く事がないように今すぐ厳重に鍵かけとけ。今すぐに」
なんとなく悪寒がしたテオドールはリーリエが暴走しないように『今すぐ』のあたりを強調してそう言った。
2度も言われた、と苦笑しながらリーリエはどこかほっとしている自分に気づく。
こんなやり取りができるようになったのだから、きっと嫌われてはいないのだろう。
『欲張っては、ダメね』
熱に浮かされて見た悪夢が現実にならないためにも気を引き締めていかないとと自分に言い聞かせたリーリエは、目下の問題となっているルイスからの依頼に目を向けた。
「さて、ルゥの意図を読み解く事から始めないとなので、手間がかかりそうですねー」
そう言って資料を手に取った時だった。不意にそれは訪れた。
『……な、んで?』
リーリエは痺れるような電流が走った指先を見つめ、呼吸を整えるよう努める。
「リーリエ?」
「……申し訳ありません、旦那さま」
その身体を引き裂くような痛みと衝動には覚えがある。無理に抑えつけようとして、動悸は増し冷や汗が出そうになる。
「急ですが、明日から稽古つけて頂けますか?」
「それは構わないが」
「では明日に備えて、今日は失礼いたします。明日の早朝からよろしくお願いいたします」
リーリエはテオドールの方を見る事なくそういうと、足早に執務室を後にする。
残されたテオドールはリーリエの異変に気づきながらも、ただその背を見送る事しかできなかった。
一応妃殿下本職ですしねとリーリエは笑う。
「騎士団の皆さまにリーリエとしてお会いするのはなんだか寂しい気もいたしますが、今回ばかりは仕方がないですね」
ヒールポーションの効果実験の名目で幾度となく通った訓練所。
リーリエはテオドールの許可を得て、ヒールポーションは、あくまで自然治癒力を高めるもので、その肉体の限界を超えた効力はないといった知識の普及を行なっていった。
回復魔法が必要な緊急時の手段としての運用を約束し、薬効の調整や生成が再現できるように暗号化したポーションレシピに落として行った。
その傍らで熱中症対策や怪我をした時の応急処置方法の講義を実施し、経口補水液以外にも蜂蜜レモン漬けやきゅうりの塩漬けなどの差し入れを行っていたリーリエはいつのまにか第二騎士団でファンクラブができるほど馴染んでいた。
特にゼノは毎回リーリエの入隊を口説いており、その度にテオドールに訓練内容を増加されしごかれていた。
「リーリエが来るとゼノがうるさいんだがな」
「ゼノ様は本当にお仕事熱心で素敵ですよね。落ち着いたら私もまた訓練に混ざってゼノ様と手合わせ願いたいです。ゼノ様のおかげで旦那さまのワーカーホリックも抑えられておりますし、ゼノ様の功績は計り知れませんね」
「普通はゼノとの手合わせなんて嫌がるんだがな。そもそもリーリエのそのゼノに対する絶対的信頼はどこから来るんだ?」
やや呆れ気味にテオドールが尋ねる。
「どこ、と言われましても。だってゼノ様旦那さまの事大好きじゃありませんか? 旦那さまの素敵さが分かる方に悪い方はいらっしゃらないのですよ」
毎回推し2人の絡みを見に行っていると言っても過言ではないリーリエからすれば、むしろ何故分からないのかが分からない。
「まぁでもあまりに仲が良すぎて、基本ノーマルカップ推しの私も一部の貴腐人に絶大な人気を誇る開けてはいけない扉が開きそうで心配になります。ヘタレ受けアリかもしれない」
目の前でテオドールとゼノの並ぶ姿を見るたび、内心で尊いと叫び、ニヤニヤを押しとどめて平静を装ってはいる身としては、前世で二次創作に手を出さなかった事が悔やまれてならない。
「……とりあえず、一生開く事がないように今すぐ厳重に鍵かけとけ。今すぐに」
なんとなく悪寒がしたテオドールはリーリエが暴走しないように『今すぐ』のあたりを強調してそう言った。
2度も言われた、と苦笑しながらリーリエはどこかほっとしている自分に気づく。
こんなやり取りができるようになったのだから、きっと嫌われてはいないのだろう。
『欲張っては、ダメね』
熱に浮かされて見た悪夢が現実にならないためにも気を引き締めていかないとと自分に言い聞かせたリーリエは、目下の問題となっているルイスからの依頼に目を向けた。
「さて、ルゥの意図を読み解く事から始めないとなので、手間がかかりそうですねー」
そう言って資料を手に取った時だった。不意にそれは訪れた。
『……な、んで?』
リーリエは痺れるような電流が走った指先を見つめ、呼吸を整えるよう努める。
「リーリエ?」
「……申し訳ありません、旦那さま」
その身体を引き裂くような痛みと衝動には覚えがある。無理に抑えつけようとして、動悸は増し冷や汗が出そうになる。
「急ですが、明日から稽古つけて頂けますか?」
「それは構わないが」
「では明日に備えて、今日は失礼いたします。明日の早朝からよろしくお願いいたします」
リーリエはテオドールの方を見る事なくそういうと、足早に執務室を後にする。
残されたテオドールはリーリエの異変に気づきながらも、ただその背を見送る事しかできなかった。