生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
32.生贄姫は追い詰められる。
森の中の古城の前で、剣と剣がぶつかり合う硬質な音が響く。
『重っ』
一手受け止めるだけで手が痺れそうな攻めに、リーリエは歓喜する。
リーリエは長剣を携え、地を蹴り一気に間合いを詰める。
横に振られた一撃をテオドールは一歩も動くことなく、いなす。
そこから態勢を崩しかけたリーリエに下から撫でるかのような攻撃で吹き飛ばす。
リーリエは空中で無詠唱で風魔法を展開し、形成した空気の壁を蹴って体制を整え加速。
剣を振りかざすが、テオドールの威圧に失速し、距離を取る。
「いい判断だ」
「……八つ裂きにされる光景しか見えませんね」
まるでお話にならない戦力差。
リーリエの頬を汗が伝う。分かってはいたが、滅茶苦茶強い。
『来るっ』
テオドールが動く。目で追うことができない速さに、逃げに転じることしかできず、リーリエはかろうじて風壁を展開させガードする。
「ガードは悪くない。が、展開範囲が狭い」
テオドールから続く連撃に風壁が看破される。
ゆっくり歩きながら振り回す刃先の動きを予測し、ギリギリのところで躱すリーリエ。
風の流れを読み、切り裂かれた空間を見極め、瞬間的に速度を上げ一気に射程内に入ったリーリエは近距離で水魔法を展開。
硬度を伴なった水矢が大量にテオドールに向かって放たれた。
だが、超近距離であったにも関わらず、すべての矢を薙ぎ払ったテオドールはそのままリーリエの手から長剣を弾き飛ばし、あっという間にリーリエを組み敷く。
「最後は悪手だったな。今日はここまで」
「はぁ…けほっ、…あ…りがとう、ございました」
長時間高速で動きすぎたため、かろうじて言葉を出せたリーリエはぐったりと横たわり咳き込む。
対して息一つ乱れていないテオドールは、水を渡してやる。
「起き上がれそうか?」
「うぅ…まだ無理です」
「じゃあそのまま休憩していろ。周辺の見回りをしてくる。戻ったら検討会」
ぼろぼろの状態でテオドールの背中を見送りながら返事をしたリーリエは、いつもみたいに萌え転がる余裕など全くなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
昨晩稽古を頼んだ後足早に部屋に戻ったリーリエは就寝準備を手伝おうとする侍女達を全員下げ、着替えもせずにベッドに横たわった。
激しい動悸とどうしようもない破壊衝動。
『前回が嫁ぐ前だから、3ヶ月くらい? ……周期が、早すぎる』
薬を飲みながら、誤魔化し誤魔化し耐えていたそれがかつてない早さで限界を超えたらしい。
明かりにかざした指先が小刻みに震える。
『一体、何故?なんで、こうなったの?』
キュッと唇を噛んで、ただ耐える。
この衝動が、大切な人に向いてしまわないように。
ほとんど眠る事ができぬまま朝を迎えたリーリエは、白んできた空を見る。
忘れられない血の匂いが、鼻の奥に燻っている気がした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『重っ』
一手受け止めるだけで手が痺れそうな攻めに、リーリエは歓喜する。
リーリエは長剣を携え、地を蹴り一気に間合いを詰める。
横に振られた一撃をテオドールは一歩も動くことなく、いなす。
そこから態勢を崩しかけたリーリエに下から撫でるかのような攻撃で吹き飛ばす。
リーリエは空中で無詠唱で風魔法を展開し、形成した空気の壁を蹴って体制を整え加速。
剣を振りかざすが、テオドールの威圧に失速し、距離を取る。
「いい判断だ」
「……八つ裂きにされる光景しか見えませんね」
まるでお話にならない戦力差。
リーリエの頬を汗が伝う。分かってはいたが、滅茶苦茶強い。
『来るっ』
テオドールが動く。目で追うことができない速さに、逃げに転じることしかできず、リーリエはかろうじて風壁を展開させガードする。
「ガードは悪くない。が、展開範囲が狭い」
テオドールから続く連撃に風壁が看破される。
ゆっくり歩きながら振り回す刃先の動きを予測し、ギリギリのところで躱すリーリエ。
風の流れを読み、切り裂かれた空間を見極め、瞬間的に速度を上げ一気に射程内に入ったリーリエは近距離で水魔法を展開。
硬度を伴なった水矢が大量にテオドールに向かって放たれた。
だが、超近距離であったにも関わらず、すべての矢を薙ぎ払ったテオドールはそのままリーリエの手から長剣を弾き飛ばし、あっという間にリーリエを組み敷く。
「最後は悪手だったな。今日はここまで」
「はぁ…けほっ、…あ…りがとう、ございました」
長時間高速で動きすぎたため、かろうじて言葉を出せたリーリエはぐったりと横たわり咳き込む。
対して息一つ乱れていないテオドールは、水を渡してやる。
「起き上がれそうか?」
「うぅ…まだ無理です」
「じゃあそのまま休憩していろ。周辺の見回りをしてくる。戻ったら検討会」
ぼろぼろの状態でテオドールの背中を見送りながら返事をしたリーリエは、いつもみたいに萌え転がる余裕など全くなかった。
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昨晩稽古を頼んだ後足早に部屋に戻ったリーリエは就寝準備を手伝おうとする侍女達を全員下げ、着替えもせずにベッドに横たわった。
激しい動悸とどうしようもない破壊衝動。
『前回が嫁ぐ前だから、3ヶ月くらい? ……周期が、早すぎる』
薬を飲みながら、誤魔化し誤魔化し耐えていたそれがかつてない早さで限界を超えたらしい。
明かりにかざした指先が小刻みに震える。
『一体、何故?なんで、こうなったの?』
キュッと唇を噛んで、ただ耐える。
この衝動が、大切な人に向いてしまわないように。
ほとんど眠る事ができぬまま朝を迎えたリーリエは、白んできた空を見る。
忘れられない血の匂いが、鼻の奥に燻っている気がした。
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