生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

42.生贄姫は地雷を踏まれる。

「旦那さま、連れ出してくださってありがとうございます。お話ししていたら、なんだか気も晴れましたし、腹も括れそうです」

 やる事が決まれば、あとは戦略を練るだけ。
 そのためには情報がいる。
 やる事だらけで明日からも忙しいなとリーリエは気合を入れる。

「で、俺に何をして欲しい?」

 そんなリーリエの隣からやや不機嫌そうな声がした。

「はい?」

 リーリエは意図が汲み取れず首を傾げる。
 その戸惑った顔を見てふっと笑ったテオドールの腕が伸びてきて、リーリエの頭をぐしゃぐしゃと適当に撫でる。

「人には頼れと言うくせに、リーリエは本当に何でも一人でやろうとするな。俺はそんなに甲斐性なしに見えるのか?」

「うぇぇえ!!??そ、そんなわけないじゃないですか!!」

 テオドールの若干拗ねた様な横顔と声音にリーリエの心臓が跳ね上がる。

「第一、俺が結婚したばかりの妻を処刑台に追いやると思われているのも心外だ」

「旦那……さま?」

「何度も言っている。話したくない事は話さなくていい、好きにしていい、と」

 髪を撫でていたテオドールの手がすっと降りてきて、長い指がリーリエの頬と顎に添えられる。

「俺の妻は本当に人の話を聞かない」

 言葉とは裏腹に優しく囁かれるような声音に翡翠色の瞳は驚きのあまり更に大きく見開かれる。
 互いの息遣いが感じるほどの距離で、リーリエの瞳には青と金の色しか映らなくなる。
テオドールの唇が重なる。
 ペシっ。

「って、何してますの!? 旦那さま」

 その直前で、リーリエの指がテオドールの唇を抑えていた。

「……そこは素直に流されろよ」

 動揺と羞恥心で心臓がバクバクいっているリーリエは、

「何もしないっていったじゃないですか!」

 意地悪気に笑うテオドールに抗議する。

「もう、日付は変わってる」

 目をぐるぐる回しているリーリエから少し距離を取り、ガード硬いなと笑ったテオドールはリーリエの頭をポンポンと軽く撫で、蜂蜜色の髪を梳くとそこに口づける。

「もう! 揶揄わないでくださいっ!! カフェオレ落としちゃったじゃないですか」

「それくらいまた淹れてやる」

「これ、旦那さまが淹れてくれたのですか?」

 推しが淹れたカフェオレもっと堪能しとけば良かったと本気でショックを受けるリーリエを見て、解せないテオドール。
 本気で揶揄ってやろうかとも思ったが、これ以上やるとリーリエから全力で逃げられそうなので、我慢する。
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